酪農業の倒産が過去10年で最多 増産をはかるも飼料高騰で悲鳴

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苦しい経営状況に置かれた酪農家たちから、悲鳴が上がっている。帝国データバンクの調査によると、牛乳やチーズの原料となる生乳を生産する酪農家の倒産が、2022年に合計14件発生(※)。前年(8件)を大きく上回り、過去10年で最多となったことが明らかになった。東日本大震災が発生し、被災や燃料不足から生乳の廃棄処分を余儀なくされた2011年(19件)以来の数となる。

政府は2014年、15年頃にかけて国産生乳不足によるバター不足が発生したことなどから、2015年から酪農家が機械や施設に投資を行う際に最大で半額を補助する大規模な事業を開始し、生乳増産を要請。その結果、2019年頃から生産量は急速に増えていった。

しかしその直後、新型コロナウィルスの流行拡大によって、学校給食の停止や外食産業・観光業が低迷し、牛乳や乳製品の需要は大幅に減少。そこにウクライナ侵攻や円安による飼料価格の高騰が、追い討ちをかけた。搾乳するには継続的に牛を出産させる必要があり、酪農家にとって大切な収入源だった食肉用の仔牛も、飼料価格の高止まりや外食需要の減少から価格が急落している。

現在、政府による飼料代補助に加え、生乳出荷価格を段階的に引き上げるなど酪農業への支援は実施されているが、消費者も物価高に苦しむ中、製品価格への転嫁が遅れているのが現状だ。

酪農業では近年、高齢化や担い手不足、設備投資のための借り入れ返済などから、赤字経営に陥る事業者が目立っていた。帝国データバンクは「飼料高騰と値上げ難を前に酪農家が経営をあきらめる状況が続けば、国産牛乳が入手困難となる『酪農危機』が現実に起きる可能性も否定できない」と警鐘を鳴らす。

※集計対象:負債1000万円以上法的整理による倒産 および 休廃業・解散が判明した企業

プレスリリース

文=大柏 真佑実

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