少なくともどちらかがウソを言っている。ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は、ウクライナのゼレンスキー大統領らの排除を唱えている。ロシアによる自作自演の「偽旗作戦」との指摘も出ているが、事件の影響は小さくない。戦線が拡大したり、ウクライナ要人の暗殺に発展したりするかもしれない。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、プリコジン氏が5日、ロシア軍からの弾薬供給の遅れに不満を示し、ウクライナ東部激戦区のバフムートから10日に撤退すると言及した。この発言も怪しい。ロシア軍への不満が爆発したのかもしれないが、撤退戦は大きな被害を生みやすく、それを事前にウクライナ側に教えるというのは、理にかなっていない。案の定、プリコジン氏は7日、SNSで「作戦継続に必要な弾薬や武器の供給を約束された」と言い出した。これも、ウクライナ軍を攪乱する意図があったのかもしれない。
ロシアは2014年のクリミア強制併合の頃から、盛んに相手の意思決定に影響を及ぼし、自分の望んだ結果を得ようとする「認知領域の戦い」を仕掛けている。誤情報や偽情報を振りまき、相手の戦意をくじいたり、他国からの支援を受けられなくしたりする。SNSが発達し、情報を発信する人も爆発的に増えた。自分が信じたいことや、自分に利益になることであれば、誤・偽情報だとわかっていても拡散してしまう。
クレムリンが「ウクライナによるドローン攻撃」を発表した3日、ワシントンにあるピザレストラン「コメット・ピンポン」を訪れた。ダウンタウンから地下鉄で10分ほど、長屋のような建物の一角に、オレンジ色の「COMET」のネオンサインが輝いていた。