今回Yさんと取り組んだのは、言ってみれば、左脳を使ってオファーを可視化・数値化し、それを確認して、それぞれのオファーの良い点悪い点、アドバンテージとリスクを認識した上で、右脳で、気持ちで決断するというプロセスになる。
一つお伝えしたいのは、項目を挙げて各項目を採点した後に、傾斜配点を行う重要性だ。数値化すること、データ化することはビジネスにおいて大いに善きことのように語られることも多いが、ビジネスの現状を数字で把握するためには各項目のインパクトの大きさをウェイトとしてできるだけ正確に設定することが不可欠だ。
今回は転職の意思決定なのでYさんご自身の価値観を反映して傾斜配点を行ったが、ビジネス上では複数のステークホールダーが納得する傾斜と点数の評価が数値化を成功させるためには不可欠だろう。
ちなみにYさんの場合、結果的に、一番合計点が高いC社ではなく、B社を選んだという。
どうしてB社か?と聞いたところ、ある程度以上点数が高くバランスが取れていて、低い点数の項目のリスクが他のオファーと比べて低かったこと。そして何より、気持ち的に、A社を選ぶ、C社を選ぶ、と想定して実際に働いている自分を考えた時と比べて、B社を選んだ状況を頭の中で思い描いた時に、一番違和感が少なかったから、とのことだった。
結局は自分の勘に従ったわけだが、Yさんの勘がどのくらい鋭く当たっているかは、数カ月後、数年後に答えが出るだろう。
Yさんの場合のように、転職活動の結果、複数内定をもらう、という幸運にはなかなか巡り会えないかもしれない。だが、目先を変えて、「これから受ける企業選び」「社内転籍の判断」、あるいは「引越し先」や「人生のパートナー選定」、「転職か留学か」などの決断にも(?)、項目さえ調整すれば役立てられる、万能の魔法陣たり得るかもしれない。仕事の、人生の岐路にぜひ、パーソナライズして使ってみることをお勧めしたい。
高以良潤子◎ライター、翻訳者、ジャーナリスト。シンガポールでの通信社記者経験、世界のビジネスリーダーへの取材実績あり。2015年よりAmazon勤務、インストラクショナルデザイナーを務めたのち、プログラムマネジャーとして、31カ国語で展開するウェブサイトの言語品質を統括するなど活躍。2022年より米国系IT企業勤務。