映画

2023.05.01 11:00

黒木華主演・映画「せかいのおきく」に見る 江戸時代のサーキュラーエコノミー

例えば、主人公おきくが住む長屋のセットは、東映京都撮影所にある様々な名作が生まれたオープンセットをリユースして作られている。ポスターにも登場するおきくと下肥買いを生業とする中次・矢亮が雨宿りする厠の建物は、古材を使って作られた。

中次と矢亮が仕事に使う「汚穢(おわい)船」は栃木市で川の遊覧船として使われていた船の材料を加工して使用され、同作品の撮影終了後は、別の作品で昭和初期の屋形船として再度使用するなど、映画の製作現場においても資源は循環されている。

回収した糞尿を運搬するのに使用される汚わい船 / 出典:映画「せかいのおきく」

今回編集部ではメディア向け試写会に参加、下記のような感想を持った。これから作品をご覧になる皆さんは、どのような点に興味関心や疑問を持たれるだろうか。

・モノが循環していくなかに、江戸時代の下肥買い(排泄物を回収する役割)のような、汚いとか辛いという要素は存在しうる。今の時代であればその部分はテクノロジーの力を借りて、軽減したり人から見えないようにしたりすることができるようになったが、果たしてそこが隠されてしまってよいのだろうか?隠されてしまうと、循環されていることの実感が湧きづらくなるのでは?という点が気になった。

・江戸時代の「もったいない精神による循環型社会」の話はよく聞かれる。しかし、本作で前面に出ていたのは、まさに下肥買いにとって今日明日の「飯」をどう食べるかという「エコノミー」の視点。下肥を「販売する」長屋の住人にとっても、衛生維持のため下肥買いに頼っていた部分が伺える。もったいない精神も根底には持ちながらも、こういった経済・実用部分や階層・貧困の要素が複層的に絡み合っていたということが本作の重要なメッセージとなっているのではないだろうか。

・下肥買いは人々の生活を支える需要な役割であるにもかかわらず、誰もがやりたがらないなど過小評価されていることが描かれていた。現代においても、同様の状況が起きている点はないだろうか。

・作中、大雨が続いて糞尿の回収が困難な状況においても、下肥買いのふたりはお金を出してそれらを買い、肥料として売っていた。これは回収する側がお金を払ってする仕事なのか、という点は発見だった。同時に、いつから糞尿は価値ある肥料として取引された存在から、要らないものに変わったのだろうか?という疑問を持った。

・もし今日本で、人間の糞尿を肥料として活用しようとすると、食べ物の質がよくなり排泄物の質もよくなった、といえるのかが疑問。食材が地産地消ではなくなり、日本にいながらアフリカ産のコーヒー豆を消費している。化学調味料が使われた食事や加工食品を食べ、薬を飲むような生活習慣もあることを考えると、現代人の排泄物は肥料にはなりえないのか?

【映画情報】
せかいのおきく 4月28日(金)から全国公開
出演:黒木華 寛一郎 池松壮亮 眞木蔵人 佐藤浩市 石橋蓮司
脚本・監督:阪本順治
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
(C)2023 FANTASIA

※この記事は、2023年4月にリリースされたCircular Economy Hubからの転載です。

文=和田麻美子

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