石油危機で確立したペトロダラー
原油の国際取引ではもともとドルによる決済比率が高かったが、ペトロダラーが世界通貨として確立したのは、アラブ諸国による1973年の石油禁輸(第1次石油危機)がきっかけだ。当時の米国のリチャード・ニクソン政権はサウジアラビアのファハド・ビン・アブドルアジズ王子(のち国王)との間で、米国がサウジに軍事支援や兵器を提供するのと引き換えに、石油取引をドル建てで行うことで合意した。そのころ原油の最大の輸入国だった米国と、最大の輸出国であるサウジアラビアとの間でこうした取り決めができると、ほかの輸出国や輸入国もすぐそれに倣うことになった。以来、石油の国際取引の大部分は米国の通貨、すなわちペトロダラーで行われている。
現在は世界的に緊張が高まり、国際貿易体制も変化し、ルーブルや人民元で決済する取り決めも相次いでいる。だが、エナジー・アウトルック・アドバイザーズのマネジングパートナー、アナス・アルハジは最近のリポートで、国際通貨基金(IMF)のデータを基に、2022年第1四半期時点でドルはなお公的外貨準備の60%を占めていると解説している。
「確かにユーロや円、人民元の台頭でドルの地位はいくらか後退したが、驚くべきことに、ドルのシェアは1995年と同じ水準にある」(アルハジ)
ウクライナ戦争の影響
ロシアやほかの一部産油国は長年、取引相手国にドル以外の通貨で決済するよう圧力をかけていたが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに仕かけた戦争を機に、こうした圧力がさらに強まっているのは間違いない。S&Pグローバルのダニエル・ヤーギン副会長はフォーブスによる2月のインタビューで、西側諸国による対ロシア制裁に参加しているのは世界195カ国中37カ国にすぎず、世界にもともとあった分断に拍車がかかっていると指摘している。ロシアによる戦争が解決先を見いだせず続く限り、おそらくこうした分断は深まる一方だろうし、ドル以外の決済への圧力も強まっていくばかりだろう。中国が米国の覇権や第二次大戦後の世界秩序に対抗する地政学的な大国として台頭してきていることも、間違いなくペトロダラー体制に対する圧力を増している。
さらに、BRICSが影響力を強め、今後拡大を計画していることも、ドルにとって試練になりそうだ。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国で構成するBRICSは昨年、新たな加盟を検討することを決めた。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は最近、加盟に関心を示している国が「十数カ国」あると述べている。
新たに加盟しそうな国としてよく挙げられるのはサウジアラビアだ。このほかエジプト、インドネシア、トルコ、タイ、UAEなども関心を示していると言われる。
以上に挙げた要因はすべて、米国やドルの影響力低下につながる可能性がある。それでも前出のアルハジは「ドルは後退しているとはいえ、支配的な地位は揺らいでいない」と強調している。
現時点ではドルがなお優位、今後は?
米国が大戦後に引き受けた「世界の警察官」という役割から降りつつあることは、ほとんど疑いの余地がない。バラク・オバマ、ドナルド・トランプ、ジョー・バイデンの3代の大統領は、言葉遣いは大きく違っても、その点では共通している。米国が世界の警察官役を果たさなくなるようにつれて、ペトロダラーの影響力が下がってきたのは偶然ではない。ペトロダラーの地位はやや落ちてきているとはいえ、現時点ではなお原油や石油製品の取引で支配的な通貨の座を保っている。だが、その地位は、国際取引や地政学的な国家間関係が再編されていくのにともなって、引き続き変化していくことになるだろう。
(forbes.com 原文)