改めて問われる「知的財産の価値」
何年も前にはなるが、筆者が日本に帰国してセキュリティのビジネスに従事する中で驚かされたことが1つある。それは「ウチに盗まれて困る情報はない」と断言する責任者の多さだった。明らかに謙遜や冗談と思われるものもあったが、中には「当社の技術情報にどれだけの価値があるのか逆に教えてほしい」「当社の技術を誰が悪用したいのか教えてほしい」といわれることも多々あった。そのときから比べれば、現在、危機意識やセキュリティの取り組みは確実に改善している。しかし「自社の機密情報が狙われる可能性があるといわれてもピンとこない」というコメントは依然として聞くことがある。
最近では、クラウドサービス上での設定の不備によって技術情報が公開状態になっていたり、業務改善を目的にAIチャットボット(人工知能)の1つであるChat GPTに独自技術の情報を提供してしまうといった事案も発生している。技術革新と市場への普及によって利便性がますます高まることで、意図せず知的財産がリスクに晒される機会も増えている。
転職を有利に進めるために競合他社に技術情報を持ち出したり、自らの技術力を転職希望先にアピールするためにクラウドストレージにコピーするといったことも起きている。過失によるものも多々ある一方で故意によるものもあり、中には業務上携わったことで、もっというと自ら開発に携わったことで、企業の知的財産を「自分の所有物」と勘違いしているケースもある。