『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』や『エンタメビジネス全史』などの著書のあるエンタメ社会学者中山敦雄に、コンテンツビジネスにはどんな未来がやってくるのか、日本発のコンテンツに求められる力とは何かについて、聞いた。
この10年、ゲームや映像、音楽、そしてマンガ出版に至るまで、ほとんどのコンテンツ領域で、オンライン化とサービス産業化(つくって出すだけでなく、ユーザーの反応を見てつくり変えていく)が急激に進んだ。その変化はモバイルゲームから始まり、電子マンガや動画・音楽配信へと移って、コンテンツはスマホにあわせて短く、分かりやすく、簡易になった。短尺動画が象徴的だが、これからもはやり続けるかというと、それは違う。
1960年代のロック音楽、70年代の日活ロマンポルノ、80年代のファミコン、90年代のPCソフト、2000年代のモバイルコンテンツなどの時代の新興市場でも、まずはチープで軽い「商品」が流行する。ところがそれは、やがてリッチで重い「作品」を志向するようになり、これらが交錯しながら、人体の新陳代謝のように定期的に産業のバイオリズムをつくっていくのだ。だから2020年代が短尺動画の時代になったとしても、いつかまたYouTubeもTikTokも権威化して“重く”なるだろう。
コンテンツを提供する側と受け取る側の関係性も大きく変わり、マスメディアがセレクトしたものを一方的に受け取る時代は終わった。自ら動画やテキストで発信し、ファンコミュニティで「表現」する消費形態は、近年の「推し」に代表されるものだ。
コンテンツ市場の次の10年は、プロとアマが溶け合いながらつくっていくクリエイターエコノミーが主流となるだろう。また、エンタメ市場における日本発コンテンツの未来は、決して規模を追うのでなく、万の単位でファンベースを小さく育てるような、世界的なキャラクターの実験場となるだろう。
なかやま・あつお◎東京大学大学院修了(社会学)。DeNA、バンダイナムコスタジオ、ブシロードインターナショナル代表などを経て、独立。Re entertainment代表取締役。