ファッションに少しでも興味のある人には、何かしらの“目覚め”、つまりきっかけがあるものだ。現代はSNSやYouTubeもその役割を担っているようだが、これまで多くの人々を着飾ることに目覚めさせ、大衆のファッション観に大きな影響を与えてきたのが映画である。
銀幕の主人公に憧れ、少しでも近づくために同じ服を着たいと願う。そんなピュアな欲求が、人々のファッションの礎となる。人生を変えるほどの影響力がある映画は、ファッションにも多大な影響を与えてきたのだ。
そんなファッションと映画の関係を語るうえで欠かせないのが、アメリカを代表するデザイナー、ラルフ・ローレンである。
黎明期のハリウッド映画には、衣裳担当はおらず、スタジオが用意した衣装を俳優たちが自分で選んで着るか、自前の服で出演するのが当たり前だったという。やがて作品のスケールが大きくなり、膨大な数や特別なデザインの衣装が必要となるに連れ、スタジオには大規模な衣装部が設けられ、作品ごとに衣装デザイナーが起用されるようになる。
衣装デザイナーはあくまで映画衣装を専門に手がけるデザイナーであり、市場向けの服をデザインするファッションデザイナーとはまったく異なる職能である。ココ・シャネルやクリスチャン・ディオール、そしてユベール・ド・ジバンシィなど、モードの都パリからハリウッドへ単発的ながら進出した著名なファッションデザイナーもいたが、巨匠たちがデザインしたのはあくまで衣装であり、その名声を高めこそすれ、市場への影響は限定的であった。