AI

2023.04.10

恐れる必要はない AIは奪う以上の「仕事を創出」する

Sarunyu L / Shutterstock.com

人工知能(AI)は熱狂を生み出しているが、それ以上に多くの恐怖を生んでいる。AIの応用で研究や記事の執筆が可能になったため、AIの能力を長年恐れていた多くの人が1968年製作の映画『2001年宇宙の旅』でコンピュータHALが行ったように、AIが感覚を持つものになり支配するようになると予測できるまでに問題は進展している。

また、AIやロボティクスが多くの仕事を奪い、その結果失業が広がるというSF的ではない恐怖も生まれている。コンピュータが支配するようになるというのは現実的ではない。一方で、雇用が奪われるとしてもそのペースは恐怖をあおる人たちがいうよりもずっと緩やかで、歴史に照らせば変化は奪うのと同じだけの雇用を生み出すだろう。

AIによる乗っ取りを恐れる前に、コンピュータが権力欲を膨らませるために必要とするものは何なのかを考えるといいかもしれない。もちろん、機械に権力欲があると想像するのは簡単だ。だからこそ『2001年宇宙の旅』はいい作品になった。しかしその欲望を持つためには機械は想像しにくい人間の特性、例えばきまり悪い思いをしたり、怒ったり、苛立ったりする能力も必要だろう。機械が人間の監督者と立場を代わりたくなるような、不適当と思う感覚を持つことは可能だろうか。もちろんあり得ることだが、可能性は低いだろう。

ウォールストリート・ジャーナルのコラムニスト、ジェラルド・ベイカーが行った実験で、機械による乗っ取りという恐ろしい見通しに疑念を抱くもう1つの理由が示されている。ベイカーはChatGPTに倫理的な生死のジレンマについて見解を尋ねた。倫理学の議論では必ずと言っていいほど登場する思考実験だが、その詳細はここでは割愛する。ChatGPTはその文言と曖昧さを認識し、この問題について他の人が言ったことのレビューを返してきた。そしてこう問いかけた。もしそれが誰かの命を意味するのであれば、はばかられる人種的な中傷を公表してもいいのだろうかと。そして、そのような言葉を使うことは決して正しいことではないとかっこ書きして返してきた。つまり、誰かを怒らせるリスクを冒すより、その人を死なせてしまおうということだ。ChatGPTは考えることも判断力を行使することもなかった。ただプログラミングをおうむ返ししたけだ。それは、感覚や権力への意志とはかなりかけ離れたものだ。

失業という問題については最近、そしてもっと遠い歴史がこのような恐れは見当違いであることを物語っている。AIがいかに近年その応用範囲と高度化において飛躍的に成長したかを考えてほしい。もし、AIが多くの雇用を奪うのであればとっくにそうなっていると考えるのが妥当ではないか。しかし今日、米国の失業率はほぼ50年ぶりの低水準にある。もしAIが雇用に破壊的な影響をもたらすのであれば、すでにその影響がいくらか現れているはずだ。
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翻訳=溝口慈子

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