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2023.04.04

EV普及をにらんだシェルの一手、充電施設ボルタ買収

Getty Images

石油大手Shell(シェル)は3月31日、3000カ所以上の電気自動車(EV)充電施設を運営する米Volta(ボルタ)の買収完了を発表した。

買収額は約1億6900万ドル(約220億円)だ。財務データが入手可能な直近の12カ月間で、ボルタは約2億5000万ドル(約330億円)の損失を出した。業績からすると、買収は理に適っていない。

しかしこの買収は戦略的なものだ。シェルは米国のガソリンスタンド業界のリーダーで、49州に約1万4000のガソリンスタンドを展開している。経営陣は消費者が今後EVを導入し、給油しなくなったときにそれらのガソリンスタンドが直面する事態に対処する必要がある。

そうした事態は、米国内のガソリンスタンドに併設されている7万1000店超のコンビニエンスストアに起こることでもある。

充電市場の影響

EVの充電は自宅で行えるという点で給油とは異なる。実際、自宅で行うのがほぼ最も安上がりな方法だ。充電ステーションでかかる費用は家庭の電気代より高いが、これは4台以上の車を同時に充電すると通常デマンドサーチャージ(需要に基づく料金上乗せ)が発生するためだ。サーチャージは充電ステーションの電気料金の90%以上を占めている。

消費者が自宅での充電を選択することが増えれば、ガソリンスタンドに併設されているコンビニの客は減ることになる。コンビニは収益を維持するために営業コスト、人件費、資本コストを削減する必要がある。

EVの充電には最低でも20分、通常はそれ以上かかる。EVの充電場所を検討する際、消費者は充電中に何をしたいかを考えるようになるだろう。給油時には考えなかったことだ。

コンビニで長く過ごすというのはあまり魅力的なことではなさそうだ。EV充電ステーションはガソリンスタンドのように燃料を貯蔵する必要がないため、ガソリンスタンドよりも多くの場所に充電ステーションを設置することが可能だ。レストランやショッピングモール、娯楽施設の運営者はEV充電設備を設置したくなるはずだ。消費者は従来のガソリンスタンドではなくそうしたところに行きたくなるだろう。
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翻訳=溝口慈子

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