この言葉は、単に退職を意味するのではなく、組織に在籍しながらも契約通りの最低限の仕事だけを淡々と行い、退職したかのように精神的な余裕を持ちながら働くことである。「仕事は熱心に働くもの」という考えに一石を投じた言葉である。
「静かな退職」(Quiet Quitting)はアメリカのティックトッカーが動画を投稿したことで拡散され、世界中に広がった。動画内の「Work is NOT your life」という言葉が印象的である。加えて、このような考えは2年前の中国で、#tangping(寝そべり族)というハッシュタグの下、拡散された説もある。
「静かな退職」に対する受け入れの差?
言葉こそ新しいが、従来もこのような働く態度は、もしかしたらあったのかもしれない。
また、静かな退職に対してのスタンスは年代ごとに異なるようにもとれる。特に、ワークライフバランスや、自分の自由な時間に重きを置いているZ世代は、静かな退職に対して肯定的な印象だ。
お金やキャリアに保守的なことが顕著であるため、このような考えになることが自然である。あくまでも仕事は、自分の安定的な生活を維持するための手段と捉えている場合が多い。
その一方で、ハッスルワーカーなどを経験した働き世代は、静かな退職に対して、サボり、甘えなど否定的に捉えていることが多いと推測する。企業としても、仕事に対して消極的な層が増えることは、あまり好ましくない。しかし、「静かな退職」もまた1つの働き方であり、排除するのではなく受け入れる姿勢が重要かもしれない。
静かな退職、就職活動にも変化が─
静かな退職のような考えは、Z世代を中心とする就職活動にも影響が出ている。とりわけ上昇志向よりも、自分の安定的な暮らしや自己の生活を重視した働き方は、会社の選び方にも反映されているだろう。自分の個性を生かした職種や、手厚い福利厚生など「自分軸」を中心とした企業選びが、近年の傾向として挙げられる。
私たちの年齢になると、就職を考えるようになる。
就職活動を行う上で、「2:6:2の法則」が引用されることがある。もともとは、どんな組織でも人材は「成果の高い人材2割:平均的な人材6割:成果の低い人材2割」に分かれる、という法則が、新卒学生の就職学生にもあてはまりそうだ、といわれるようになったのだ。
すなわち、働くことに熱を持っていて、非常にアクティブに就職活動を行う学生全体の2割。就職活動の時期になった時に、その潮流に合わせて行う大多数6割。
そして、働くことに対する意欲が非常に低く、就職活動をほとんど行わない2割。この割合の数字が、たとえばだが「1:6:3」とか「1:7:2」「1:8:1」といった具合に変化するかもしれない。
「静かな退職」の風潮が就活界に浸透すれば、給料や役職などよりも、比較的安定して最低限の仕事量で収入を得られる会社を選択する人が増える。ハードワークな企業や、高収入の企業よりも、ワークライフバランス、自分の個性を尊重してくれる企業を選択する学生が増えるかもしれない。
その一方で、昨今のコロナ禍の影響からか、大手企業への人気があることも事実である。これからは、安定した収入を得つつ、自己のライフスタイルを柔軟に形成できるような企業が求められそうだ。
筆者もZ世代のひとりとして、就職活動の動向はとても気になる。今、私は働くことに対して大きな希望を持っているが、誰もが「静かな退職」者的な心境になる瞬間はあるだろう。見方を変えれば、「静かな退職」者にこそ、会社の空気を変えられる秘訣が潜んでいるのかもしれない。