VERBAL:ありますよ。でも、「飽きる」って、向き合い方とフェーズだと思うんです。音楽もファッションも、最初は「こんなのあったらいいよね」みたいなものづくりから始めて、どんどんバックエンドでやるほうが楽しいと変わっていった。僕も飽きっぽいですが、だからこそ常に次のフェーズに動いてく。
最初は「世界一かっこいいラッパーになりたい」「いいものをつくりたい」「世界でやりたい」と思っていて、世界に行ったら、そこからどんどん広がった。いまは、自分で作曲するよりは、インフラをつくるほうにパッションを感じている。でも、音楽は一筋。音楽はずっと好きで、向き合い方が変わりました。
成田:フェーズを意識的に時々変えるのもいいかもしれないですね。歴史がある伝統的な業界だと特に、キャリアを通じて同じ仕組みやルールで戦い続けることが大事だという思い込みが強い。ゲーム自体を違うところにポンと乗り換えてしまうことも、人生のあり方としていいんじゃないかなと。VERBALさんはそんなお手本だと思います。
伝えたいことがすごく伝わる瞬間がくる
──今後、日本のクリエイターにはどういうスキルやマインドセットが必要になると思いますか。VERBAL:やりたいことが明確であれば、テックやビジネスを毛嫌いするのでなく、世界を広げるためのツールとしてとらえればよいと思います。大学卒業後、アメリカの証券会社などで働いていたけど、まったく思い入れがなくて記憶がなかった。でも、音楽やファッションをビジネスやテックの面から向き合うなかで、当時の記憶がよみがえってきて、「もっとちゃん仕事場で勉強しておけば」と思いました。
成田:全然関係ないと思われていたふたつのものの組み合わせが価値をもつ局面が多い時代です。例えばアニメや漫画へのコンテンツ愛と、英語で契約や交渉をできる国際ビジネススキルを併せもつ人が希少だとよく聞きます。VERBALさんのお話のように、いますぐには価値がわからないものもちょっと身につけておくと、後になって突然価値をもち始めたり腹落ちしたりすることもあるかもしれない。
VERBAL:日本のやり方をそのままもち込んで欧米やアジアでうまくいくことはまずありません。自分がパッションをもって「つなぎたい」と思ったら、シンパがいないからあきらめるのではなく、伝わるコミュニティを探していくべきですよね。自分の伝えたいことを伝え続けていれば、すごく伝わっていく瞬間が訪れるんだと思います。
それと、周りからたたかれているイコール、間違っているということはない。僕は個人的にたたかれるほうが「これは新しいんだ」って思いますよ。
成田:バカにされたり、たたかれるぐらいがちょうどいいのかもしれません。既存のカテゴリーに当てはまらなくて、肩書がはっきりしない人、つまり遠くから見ると「何やってるの? この人」という問題児みたいな人が大事になっていくでしょう。
バーバル◎1975年、東京都生まれ。インターナショナル・スクールを経て、米ボストン・カレッジ卒(経済学・哲学専攻)。米証券会社スミス・バーニーなどに勤めた後、98年にm‐floを結成。多くのヒット作をもつ。AMBUSHではCEOを務め、国内外での多彩な活躍で注目されている。
成田悠輔◎経済学者、データ科学者。東京大学卒、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号取得。多くの企業や自治体と連携し、データやアルゴリズムを用いて政策とビジネスをデザイン。イェール大学助教授、半熟仮想代表、投資家、YouTubeやテレビMC、作家としても活躍する。