ひとつの生き方に固執しなくていい
──成田さんご自身の仕事へのモチベーションや働き方はどう変化してきましたか。成田:自分は、雑食的な好奇心が強くて、思い入れやこだわりが少ないんです。大学で論文を書いて評価を高めていくことがいちばん大事だと思っていないし、かといっていくら稼げたかがすべてだと開き直るタイプでもない。何でも興味があってあらゆるところに足を突っ込んでます。
大学に所属しながら、同時にスタートアップというか中小企業をやったり、投資家として入ったり。あとは企業や自治体と組んでプロジェクトをしたり。結果として、ひとつの生き方に固執しなくてもいいと実感できたのが大きな収穫でしょうか。ひとつの業界で、ひとつの価値尺度で戦っていると、時間がたてばたつほど、そこから逃れるのが難しくなって、それ以外の場所で生きていけなくなってしまう。
アメリカの大学院に行ってから、研究者の頂点のような世界がどんなものかそれなりに体感しました。同業者同士の狭い世界で、その文化が合う人もごく少数いるけど、こうでなければならないという業界圧力と自分の心の声の間ですごく苦しんでいる友達が多くて、これは間違っているんじゃないかという気がしました。単純に、人の生き方や価値のもち方は多様化していいんじゃないかと感じたんです。
似た問題は、ほかの業界にもあります。スポーツや経営・投資など、明確なルールや価値基準がある世界は特に。そのルール・基準に基づく競争に目を奪われてしまい、その外にある世界の広さに目が行かなくなってしまいます。その同調からどう逃れるか。自分にとって無理のない生き方を守るうえで重要だなと思いました。
──いまの自分の働き方はどう評価していますか。
成田:働かなくちゃいけないフェーズにおける働き方と、働かなくてもいいフェーズの働き方は違いますよね。一定の年齢になったり、ある程度うまくいくと、生活のために稼ぐという働き方が必要でなくなる場合が多いですよね。
VERBAL:働かなくていいって、人によると思うんですよね。仮想通貨のかいわいの人とかに会う機会が増えるなかで、ビットコインですごく稼いだ人でも、楽しいことをやりたいという人と、「もっと稼がないと」という人も両方います。
成田:生活のために稼ぐ必要はなくなっても、ほんとうに活動をストップする人はほとんどいないと思う。私の周りでも資産が100億円になろうが1000億円になろうが、変わらず働き続けている人がほとんど。自分が世界に必要とされている実感や、誰かと一緒にやってつながりを感じられるという側面のほうが、人間の根本的な欲望なんだろうなと思います。
──VERBALさんは、これまでのキャリアを築くなかで葛藤はありましたか。
VERBAL:生意気かもしれないですが、イノベーターズジレンマみたいなものはあります。新しいことをしたい、でも、そういう話をすると大体「それって誰もやったことないじゃん」って。「いや、だからやるんだよ」と言っても99%刺さらない。
じゃあこれは自分でやるしかないと思って、大体自分でやる。それでケーススタディができて、導入につなげていくんですが。そういう場合の投資は、自分の実費になることが多い。好きだからやるんですけど、もっとうまく人を説得できて「ちょっとこれ、みんなでお金出しあって盛り上げてみない?」って言ったら、みんなが乗ってくれるようになればいいのかもしれないですね(笑)。気持ちのほうが先走って、自分だけでやることになるのが葛藤ですかね。