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2023.03.22 09:30

遺伝子編集でマウスの視力回復、中国研究チームが発表

遺伝子疾患で失われたマウスの視力を回復させたとの研究結果が発表された。(Getty Images)

遺伝子疾患で失われたマウスの視力を回復させたとの研究結果が発表された。(Getty Images)

遺伝子編集技術「CRISPR」を用いて盲目のマウスの視力回復に成功したとする論文が17日、中国の研究チームにより米医学誌「実験医学ジャーナル(Journal of Experimental Medicine)」に発表された。ヒトへの応用に向けた新たな一歩となる成果だが、この革新的技術は倫理面での難題も生んでいる。

使用されたマウスは、網膜色素変性症によって視力を失っていた。網膜色素変性症は「遺伝性網膜ジストロフィー」とも呼ばれ、網膜の細胞が徐々に破壊されていく遺伝子疾患。ヒトの失明の主要原因の一つとなっており、米国では4000人に1人が罹患していると推定される。

チームは新たなCRISPRツールを開発し、失明の原因である遺伝子変異を修復するために使用。結果、マウスは高齢になっても視力を維持したという。マウスの視覚能力は、水上迷路からの脱出など、さまざまな行動テストを通じて評価した。

研究チームの一員である中国武漢科技大学の姚凱(Kai Yao)教授はフォーブスに対し、CRISPR法は以前から盲目マウスの視力回復に使用されてきた技術だが、これまでのツールは網膜色素変性症を含め、人間の失明の遺伝的要因の多くを効果的に修正できなかったと説明した。

姚教授は、チームが開発したCRISPRツールはより多用途で、「ゲノムのあらゆる位置であらゆるタイプの編集」を行えると説明。「現時点で最高水準の遺伝子編集ツールかもしれない」との見解を示した。

網膜色素変性症を引き起こし得る遺伝子変異は100種類以上存在する。姚教授は「今回の研究結果を励みとし」、他のタイプの網膜色素変性症についても研究を行いたいと述べている。

ただ、ヒトへの応用はまだかなり先のことだ。「安全性への懸念を取り除き、有効性が確実に認められるまで、このシステムをヒトに対して安全かつ有効に使用することはできない」と姚教授は説明した。

「Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat(クラスター化し、規則的に配置された短い回文配列の繰り返し)」の略であるCRISPRは、強力な遺伝子編集ツールで、近代生物学で最高のイノベーションの一つとしてたたえられている。「遺伝子のハサミ」とも呼ばれ、DNAの特定の位置を正確に変更することができる。

その用途は理論的に無限であり、登場からわずか10年ほどで生命科学に大きな革新をもたらした。すでに医学や農学などさまざまな分野で病気の治療や予防、生産の促進、さらには絶滅動物の復活にも利用されている。すでにヒトに対する試験も行われており、この技術を用いて初の「遺伝子編集ベビー」が誕生したことで国際的論争を巻き起こした。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫、編集=遠藤宗生

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