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2023.03.20

トマトの「オンデマンド品種改良」、米スタートアップが画期的手法を開発

Beykov Maksim / Shutterstock.com

フランス産のブドウの種を米国に運び、カリフォルニア州やオレゴン州で育てた場合、数年後には、風味が大きく異なるブドウが生まれることが知られている。

このように環境の変化がDNAの遺伝子のオンオフに影響を与える効果は、生物学では「エピジェネティクス」と呼ばれる。カリフォルニア州を拠点とする農業テクノロジーのスタートアップ「サウンド・アグリカルチャー(Sound Agriculture)」は、このプロセスを利用して、日持ちの良さと豊かな風味を兼ね備えたトマトを生み出すことに成功した。

「私たちが知る限り、エピジェネティクスを利用して生み出された消費者向けのプロダクトは、これが初めてだ」と、同社のトラビス・ベイヤー最高技術責任者(CTO)は話す。

サウンド社は3月14日、大手食料品流通業者のS・カッツマン・プロデュースと提携し、ニューヨークの都市圏の食料品店に「サマースウェル」と呼ばれる新品種のトマトを試験的に提供すると発表した。

同社のステファニー・カッツマン副社長がフォーブスに語ったところによると、一般的に風味が優れたトマトは、日持ちがしないものだという。「だから、風味が良くて日持ちがするトマトと聞いて、最初は半信半疑だった」

トマトの日持ちと味を両立させるのは、2013年にサウンド社を設立したベイヤーとエリック・デービッドソン最高プロダクト責任者(CPO)の長年の夢だった。この10年間で、同社はBMO Capital MarketsやMission Bay Capital、Leaps by Bayerなどの投資会社から1億6000万ドル(約215億円)を調達し、従業員数を140人に拡大した。

アダム・リトル最高経営責任者(CEO)によると、同社は芳醇なワインを思わせる香りで知られる「ブランデーワイン」と呼ばれるトマトの研究を通じて、ある遺伝子の働きが、このトマトが日持ちがしない原因になっていることに気づいたという。

従来のトマト農家は、この問題に対処するために、同種のトマトを大量に栽培し、日持ちがよい品種との交配を重ねて、傷みにくいトマトを作ろうとする。また、遺伝子操作によって新たな品種を生み出すアプローチも考えられる。しかし、どちらの場合も製品を市場に送り出すまでには長い時間と高いコストが必要だ。

DNAを変化させずに味を変える

ベイヤーによると、サウンド社のチームは、特定の遺伝子を活性化させるのに役立つトマトのDNAを用いたソリューションを開発した。トマトの細胞壁を制御するDNAの断片を特定し、種をそのDNAの断片を含む溶液に浸し、遺伝子の発現経路を固定したという。そして、その後の6世代以上の交配を経て、ブランデーワイントマトのような風味を保ちつつ、日持ちもする「サマースウェル」が誕生した。

ベイヤーによると、このトマトは、親であるブランデーワイン品種のトマトと遺伝的に同一であり、DNAはまったく変化していないという。

サウンド社は、サマースウェルのテスト販売を通じて、小売店や外食チェーンからのフィードバックを集める予定という。また、うまくいけば、同社はエピジェネティクスを活用したより多くの種類の農産物を生み出すことを計画している。

「これは消費者にとって、非常に喜ばしいことと言える。なぜなら、このソリューションはより優れた性質を持つ農産物を、より早く市場に投入することを可能にするからだ」とベイヤーは語った。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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