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This is your brain on science.

PathDoc / shutterstock

分子のマジシャンの一振りで、あなたの家系で悪いと思われる形質を直せるとしたら、どうするか。カリフォルニア大学バークレイ校のジェニファー・ダウドナ教授とMITのフェン・チャンの研究により、どんな理由であれ、編集が必要と思われる私達の細胞の遺伝子配列をさっと正確に編集できるようになった。

それは、バクテリアから借りた編集システムであるCRISPR-Cas9を使って行う訳だが、あまりに簡単なので、ガレージで研究している素人 でも行うことができる。中国の科学者は、人間の胎児にこのツールを試していると、既に報告している。彼らは、大成功を収めている訳ではないが、システムに対する最近の改良によって、問題の幾つかは解決されたかもしれない。

私達のゲノムを正確に編集できることによって、殆ど無限の可能性が広がり、重大なものから、ちょっとした手直しまで様々である。ハンチントン病などの死に至る遺伝的形質については、精子や卵子の中の原因となる遺伝子変異体を編集し、後の世代がそれを持たないようにするのである。これらの破滅的な病気を持っている家族にとっては、その可能性は、もう待ちきれないものである。

しかしながら、可能性は、死に至る病の予防から、より微細な修正まで幅広い。例えば、親の美意識によって中立的な特徴を入れたり取り除いたりすることや、既に始まっているように、自閉症のような神経生物学的な病気に関連している遺伝子変異体を標的にすることなどである。

遺伝子の編集が広範に行われることによって、私達の個性が均されて均質なものになってしまうのではないかとの恐れを生んでいる。これは、ダウドナ教授自身を含む、この分野の最高の専門家も問題視している懸念の一つである。人間に対する遺伝子編集の研究を継続することを支持しつつ、ダウドナ教授は、CRISPR編集ツールを使うことに関する倫理や適切な利用について思慮深い議論を行うことを呼びかけ、以下のように言っている。

私は、現在はまだ、人の胎児の遺伝子編集を実際に臨床的に行う時ではないと確信しています。この分野の研究において、臨床的適用に踏み出して良いと思える状態に、どうやって到達するのか。この種の作業を行うための十分な規制が既にあるでしょうか。それとも、追加的な規制措置が必要でしょうか。

CRISPRが、驚くほど大きな可能性を秘めていても、まだ、その研究が始まったばかりであることを考えれば、十分な規制がなされていないのは当然である。破滅的な死に至る病気を予防するためにCRISPRを臨床的に使うことが、適切な利用方法であることは明白だが、その他の利用可能性については、倫理的には判断が難しく、適用可能な利用と不適切な利用の線引きは、曖昧なものになるだろう。

米国国立衛生研究所(NIH)のフランシス・コリンズ所長など何人かは、人間の生殖細胞(精子と卵子から形成される)を含むCRISPR関連の研究を禁止することを呼びかけている が、ハーバード大学医学大学院のジョージ・チャーチ教授(バイオテクノロジー企業の創設者であり、同社は、CRISPRを豚の胎児に適用して人間の臓器移植に適する豚を育成しようとしている)などは、そのような禁止に強く反対している。

Nature誌の論説において、ダウドナ教授は、完全な禁止は「現実的でない」として、人間の生殖細胞の編集を行うための、5つのステップを提案している。その中には、効果を測定するための評価方法の標準化、ガイドライン作成のための国際協力、倫理問題に決着が着くまで暫定的にこの種の編集を「予防的に停止」することが含まれている。

チャーチ教授が、 彼自身のNature誌の論説 において、現行の規制によって、ダウドナ教授の言う境界が示されるかもしれないと主張しているが、そうなりそうにはない。Nature誌の説明によれば、生殖細胞編集に関連する法律は、世界中で様々であるが、20ヶ国の代表が、これらの問題に対処するために米国・英国・中国が主催した会議を まさに終えたところである。 チャーチ教授は、このツールの乱用は避けることはできないが、禁止すれば、闇市場に追いやるだけだとも主張している。それは本当かもしれないが、だからと言って、ダウダナ教授の提案するように、怪しい行為を行うつもりのない人向けに、倫理とガイドラインの枠組みを策定するために、一時的に研究を停止することができないことははないだろう。

そして、チャーチ教授を含む何人かが、Boys from Brazil(ヒトラーのクローンを甦らせようとする話)のようなホラー・ストーリーを持ち出し、ダウドナ教授すら、 ヒトラーの亡霊の夢に悩まされていると打ち明けているが、他方、私達の態度の個性が均質化してしまうことも、同じくらい大きく懸念されるのである。

チャーチ教授は、Nature誌の論説の中で、「有害突然変異を共通の変異に置き換えることによって、予見できない影響が生じる可能性は低く、おそらく可逆的である」と主張している。しかしながら、私達が何となく予見する影響ではあるが、必ずしも普遍的に望ましいと思われていないものについてはどうだろうか。もし、生殖細胞の編集にフルスピードで進むとしたら、うつ病関係の変異体を狙った一振りとして始まったものが、何らかの基準から外れた神経生物学的状態に対して、一斉に拡大する可能性がある。

それにもかかわらず、これらの陰の部分や、その明らかな発現は、私達の知る限り、最も顕著な人類のイノベーションと創造性に関連しているのである。例えば、精神疾患と創造力は、それら両方の原因となっている変異体によるものかもしれない。もし、私達が、特定の変異体を狙い撃ちして、精神分裂症、双極性障害、うつ病を編集でなくしてしまうと、 ジョン・ナッシュ、 テンプル・グランディン 、 エイブラハム・リンカーンを消去することになるのだろうか。

また、チャーチ教授が言うように、ハンチントン変異体や嚢胞性繊維症変異体などを矯正することについて、予測できない影響が生じる可能性は無いというのは、全くその通りかもしれないが、行動に関連する変異体がどのように他の遺伝子と互いに影響し合って、個々の人間の行動をもたらす気まぐれな組み合わせを作り上げているかについては、端緒さえ掴めていない。

無数の分子の相互作用の結果として、私達が誰であるか決まることを考えれば、意図的な遺伝子編集の影響をどのように追跡すればよいのだろうか。この文章の一語を変えることが、その単語以外にも影響することを考えれば、遺伝子の配列を変更することは、発現する形質からは予測や予見できない効果の連鎖につながる可能性がある。

短期的には、どう線引きしたら良いかは明らかであるように思われる。チャーチ教授のいうように、リスクよりもメリットに焦点を当てることが疑問の余地なく明白な状況が一つある。死に至る病気については、最高の科学者が、関心を持って精力を注いで、この正確なツールを適用して、それに対処し予防すべきであろう。

しかしながら、その他については、CRISPR編集によって作り出される突破口に殺到するのではなく、それらの編集されたゲノムから最終的に作り出される人々、個々人について考えてみるべきだろう。コントロールし均質化しようとすることで、何が失われるのか、また、どのような予測不能な結果が生み出されるのだろうか。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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