IBMは人工知能「Watson」を使って医療の世界に革命をもたらそうとしている。今回発表したマージ・ヘルスケアの買収は、その壮大な試みの一端だ。売上高2億2,700万ドル(約280億円)のマージ・ヘルスケアは、医師や病院がCATスキャンやX線写真などの医療画像を保管・分析するサービスを提供している。IBMの目的は、Watsonを使って同社のデータを患者の医療記録と合わせて解析することだ。
これは素晴らしい試みだが、果たしてWatsonにその能力があるのだろうか?
「WatsonはMRIとX線写真やCATスキャンとの違いを認識し、撮影した物体が脳なのか心臓なのかも識別できる」とIBMの研究開発部門を率いるJohn Kelly上級副社長は話す。「我々は、Watsonには十分な能力があると確信している。今回の買収により、これまで我々に欠けていたクライアントや画像へのアクセスを得ることができる」
これが実現したら、まさに革命的だ。Kellyによると、現在、医療データの90%以上が画像で、その大半は人間の目で分析されている。人工知能を活用して心臓壁の厚さを測定したり、骨折の証拠を見つけ、患者の診断データと突き合わせれば、誤診を減らし、患者の命を救うことにつながるかもしれない。
IBMはこれまでもWatsonの医療活用を試みている。今回の買収は、その一連の取組みの中でも最新のものだ。IBMは4月にクリーブランドに拠点を置くExplorysと、ダラスに拠点を置くPhytelの買収を発表し、Medtronic、Johnson & Johnson、Appleとの業務提携も行っている。4月後半には、日本の日本郵政との業務提携も発表した。日本郵政は、傘下に巨大な生命保険会社のかんぽ生命を持ち、AppleとIBMの人工知能テクノロジーを使って、高齢者向けの新サービスを開発する予定だ。また、5月には、がん遺伝子解析市場に参入すると発表している。
しかし、現状ではこのプロジェクトに関する具体的な情報は少ない。果たして、Watsonは本当に正確な診断を実行可能なのだろうか? IBMのコンピュータは、放射線科医たちが見逃した健康問題を発見することができるのだろうか? ヘルスケア業界では、デジタル業界に度々現れるベーパーウェア(予告ばかりでいつまでも完成しないソフトウエア)は通用しない。
Watsonの医療活用に関するニュースが溢れる中、我々は様々な質問をIBMに投げかけているが、返ってくる答えは少ない。一方でKellyは今後FDAの認可を取り、病気ごとにWatsonの有用性を実証し、医師や病院、保険会社が納得するまでその試みを続行すると誓っている。
「私は、自分の信念だけで何千億円もの大金をつぎ込んだりはしません。数多くの優れた頭脳の持ち主たちが、私を後押ししてくれているのです」とKellyは強調している。