小売業界におけるもうひとつの課題「サステナビリティ」
長期的なトレンドとして、私が特に期待しているのは、小売企業が行うリコマース(顧客が使用済みの製品を再び販売し、新たな顧客に販売することを可能にする仕組み)です。GlobalDataの新しいレポートでは、古着市場は従来の小売の11倍の速さで成長していると伝えられています。これは、地球環境にとって好ましい動きであり、消費者が自分の持ち物を整理できるうえに、小売企業にとっては新たな収入源を生み出します。
デザイナーズブランドのSaks OFF 5th(サックスオフフィフス)のPresident兼CEOのPaige Thomasは、再販は「単なるトレンドではなく、ライフスタイルである」と述べました。
イケアのセッションでは、家具の再販プログラムによって、実店舗への来客数が増加し、環境と消費者双方にメリットがもたらされたことを紹介しました。
米イケアでRetail Design and Home Furnishing Identityを務めるSeana Strawnは「(お客さまは)再販商品を購入するだけでなく、店内にとどまり、再販商品以外の商品も購入してくれます。再販はトラフィックドライバーであり、購入金額の増加にもつながります」とリコマースのメリットを付け加えました。
アーバン・アウトフィッターズは、製品や素材の来歴や証明書といったデータの管理を自動化し、サイト上で製品の関連情報として公開するなど、ユニークなショッピング体験を生み出しています。また自動化によって、行政からの要望や規制にも柔軟に対応でき、ビジネスへの影響を最小限に押さえることができるとしています。
同社のProgram ManagerであるMorgan Lawrenceは、顧客とのコミュニケーション方法に関して「アーバン・アウトフィッターズは (製品のサステナビリティに関する) 情報を持っていますが、それをどのように伝えるのがベストかを考えています。私たちは、製品の原産地や、製品がウェブサイトに登場するまでに辿ってきた来歴を伝える様々な方法があると考えています」と述べました。
「新しい常識は、実は古い常識」
NRFで見えてきたトレンドに共通するのは、デジタルトランスフォーメーションとサステナビリティでした。これらはいずれも決して新しい要素ではありません。これまで向き合ってきたことに、これからも愚直に取り組んでいこうとする小売企業の強い意志の現れを反映しているのです。そしてこの3年間、誰もが規制の下で我慢をして生活をしていましたが、もうそろそろ大きく羽ばたいても良いのではないか。そういった消費者の気持ちや小売業界の方針を「Recovery (リカバリー)」でなく、「Growth (成長)」と参加者が表現していたことに、大いなる希望を覚えました。
Francisco Melo◎Senior Vice President & General Manager, Avery Dennison。デジタル技術におけるグローバルリーダーであり、企業戦略と新技術の導入において20年以上の経験がある。テクノロジーを社会に役立つ力として活用し、気候変動などの世界で最も困難な課題に取り組むためのデジタルIDの力を強く信じている。