近しい存在が亡くなることで悲しくなるのは当然ですが、ペットとの距離があまりにも近すぎると、そのぶん、亡くした時に必要以上にダメージを受けてしまいます。人間の家族同士でも、常に行動をともにしてベッタリの関係でいれば、過度の依存関係になるか、反対にいざこざやぶつかり合いが起きやすくなりますよね。
「相手からお返しを求めない愛情」を持つ
──飼い主側に求められるペットとの理想の関わり方というのは、どのようなものでしょうか?「適切な距離」を保つことに尽きます。また、愛情は注いでも、癒しという「お返し」をペットに求めてはいけません。
研究結果が出ているというわけではないですが、ペットと適切な距離を保てなくなっている一因としてスマートフォンの普及があるのではないかと私は思っています。いまは、ちょっとした知り合いでもSNS上でいつでも繋がれるわけですが、テキストの受け取り方の違いから誤解が生まれたり、“いいね”を期待しすぎたり、非対面であるために攻撃性が増したり……。そういった環境の変化から、リアルでの人間関係構築がうまくいかなくなっているという見方もありますよね。
「人と動物の関係」は、人と人との関係の写し鏡みたいなところがあるんです。人とペットとの間でも、適切な距離が保てなくなっている人が出てきているということです。
──谷田教授はこれまでの生活のなかで動物とはどのように関わってきましたか?
私はいま中型犬2頭と暮らしていますが、いちばん多く動物がいた時は、猫9頭と犬3頭と同居していました。猫は皆天寿を全うしましたが、そもそも猫も犬もたまたま誰も引き取る人がいなかったという事情で飼いはじめた保護動物です。今まで、ペットショップで動物を購入したことはないし、癒してほしいという期待を持って引き取ったこともありません。もちろんこれまで暮らしてきた動物たちはすべて可愛いし、100%の愛情は注ぎましたよ(笑)。
──ペットに「癒し」を期待せずとも、良好な関係になるには、どんなことをすればよいのでしょうか。
主に幼児を対象とした教育に「動物介在教育」という分野があります。海外の研究では、3歳から5歳あたりの幼少期に生き物と触れることで、他者に対する思いやりの感情が育まれやすくなるということがわかっています。
3歳から5歳の幼児は、親や幼稚園で一方的にお世話をしてもらい、助けてもらっている存在ですよね。でもこの時期に、猫やうさぎ、鳥など自分より小さくて踏んでしまったら死んでしまうような生き物が身近にいると「あっ、自分も誰かをお世話する立場にあるんだ」と気付かされる。
「愛情は注いでも、癒しという『お返し』をペットに求めてはいけない」と先ほど話しましたが、子ども時代にそういう経験があれば、見返りを求めずとも、誰か自分よりも弱い存在のために何かをしてあげることだけで幸せを感じることができる大人になれると思います。
癒しを求めるなら、ペットを飼うこと以外の趣味で満たせばいい。「相手から『お返し』を求めない愛情」ということを心がけながら、ペットと接することが必要なんじゃないでしょうか。