マーケティング

2023.03.17 09:00

建築を学び日本酒の世界へ 永井酒造六代目蔵元の挑戦

中道:永井さんは建築のためにヨーロッパに出て、そこで見たものの影響を多分に受けた。日本酒のプロセスをデザインとサイエンスとクラフトの3つの軸で見るというのもまさにそうですね。

永井:日本の建築ってデザイン施行一貫みたいな感じで、海外のようにデザインにお金を払う文化があまりないんです。デザインのアイデアを考えるところが一番大変なんですけどね。

酒も、ものすごい手間暇をかけて、自然と対話しながら身体や精神を削りながら造っているわけです。品評会に出すような最高の大吟醸は、圧力をかけて絞らずに垂れて来る雫を集めるのですが、それが1本5000円なんです。「ええっ!」と驚き、世界に通用する酒を造りたいと思いました。

ある時、僕の尊敬するワイン通の方が、「世界を目指すならワイン会に来い」と呼んでくれて、そこで白ワインのモンラッシェDRC1988年を飲ませてもらいました。それが稲妻が落ちたみたいに強烈で、涙が出るくらい感動して。帰宅してすぐにワインのことを調べ始めました。

そしたら、ブランドとか世界観とかヒストリーとか、どんどん深い情報が出てきて。日本酒にはこれが足りていない、まずはワインに並ぶようにしっかりやっていこうと決めたんです。

日本酒って世界では日本独自のものとしてエキゾチックなカテゴリーに置かれちゃうんですよ。なんかそこが悔しくて。世界で勝負するなら王道で勝負したい。ワインが価値をあげてきたように、自分の残りの人生をかけて日本酒の世界的な価値を上げていきたいと思っています。

(C)永井酒造

(C)永井酒造


中道:日本酒にもワインと同じように作り手の思いや歴史があるのに、日本の人たちは良くも悪くも「良いものを安く」というマインドがありすぎますよね。

ワインは、産地による違いがあり、シャンパーニュ地方でつくられるものだけがシャンパンと言えるみたいなルールがあり、ランキングもある。「だからこれだけの価格なのだ」という仕組みがあるんですよね。日本人はそういうところがもったいないくらい下手だと思います。

永井:僕もそう思います。だからちゃんとした仕組みをつくらなければいけない。それでAWA SAKE協会を立ち上げました。これまでなかったシャンパンタイプのスパークリング日本酒を作りたいという一心でワインを独学で勉強しました。

栓を開けた瞬間にバーッと吹き出て酒シャワーを浴びたり、普通の日本酒の瓶を使っていたので冷蔵庫の中で爆発して割れてしまったり。結局開発中に3000本ぐらい割れて流れてしまいましたけれど、10年研究してやっと熟成させるための適正温度がわかり、2008年に完成しました。そこがスタート地点です。今日お持ちしているのでちょっと開けてみましょうか。

中道:ぜひ。
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文=久野照美 編集=鈴木 奈央

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