開発の原点は「鉄腕アトム」
物の運搬だけを命じるのならば、わざわざ人間のような手を取り付けたり、耳や目を動かす必要はないはず。なぜ「配達ロボ」のキャラクター性にこれほどこだわったのか。今回、開発者のジェローム・モンソーへの単独インタビューが叶った。──ロボット開発者になった背景は?
「小さい頃から『鉄腕アトム』や『ゼルダの伝説』など、日本のアニメやゲームが大好きで、休日には父とロボットを作って遊んでいました。その積み重ねでロボット業界に足を踏み入れ、もう20年以上をロボットの開発に捧げてきました」
──「MIroki」の構想はいつ頃からありましたか?
「具体的にプロジェクトが動き出したのは2年前ですが、アルデバランを退社したときからずっと新しいロボットの構想を練っていました。僕たち人間が暮らす現実の世界で、ロボットの存在には実用性が求められますが、僕はペッパーの開発中、表情の乏しさやストーリーのないことに物足りなさを感じ、次は“個性”を持ったロボットを作りたいと思っていました。
キャラクターは、単にデザインが可愛いとか、その存在や世界観自体が魅力にもなります。病院という空間で、癒される存在は患者さんや子供にとっても有益でしょう。ただの“役立つ機械”ではなく“人間のためになる個性あるロボット”を作りたかった」
──医療現場での課題解決を目的とした背景はなんですか?
「共同創業者のサミュエル・ベンベニスト(フランス国立認知刺激専門センター前所長)は病院勤務の経験も豊富で、医療現場の問題点を深く理解しているので、彼の問題意識を基にミロキの性能を検討しました。
WHOの調査によると、世界中の医療現場で、2700万人の医療従事者が一日に一人あたり2時間半を“物を運ぶ”という作業に奪われています。これをロボットが代行すれば、その分、本来の業務に専念できる時間が確保できます。
先述の通り、ミロキの構想はペッパー開発時からあったのですが、偶然にも開発期間がコロナのパンデミック期間と重なり、ミロキのようなロボットが、ますます僕たちの世界に必要になるだろうと思いました。両親や友達がコロナにかかり、通院を通して現実の医療従事者の苦労も身近に感じることができました。すでにフランスでは実際に稼働している病院でミロキの実証実験も行なっています。近いうちに日本の病院でも試したいと考えています」
──日本での実用化目標は?
「2023年内に、東京にオフィスを作りたいと考えています。本格的な販売開始は2025年が目標です。まずはフランスからスタートし、世界に向けて500台のミロキを発売します。2026年にはさらに数を増やし、2500台の出荷予定です。大きな目標としては、10年後に総計10万台まで数を伸ばしたいと考えています」