弾薬、北朝鮮から買ったワグネルと韓国から買った米軍の損得勘定は?

民間軍事会社ワグネルのロゴ(Photo by Maksim Konstantinov/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

ロシアがウクライナに侵攻してから24日で1年になる。英国国防省が今月発表した資料によれば、ロシア軍兵士や民間軍事会社ワグネル戦闘員の死傷者が17万5千人から20万人に上ったという。うち、死者数は4万人から6万人にものぼるという。米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は17日、ワグネル戦闘員が3万人以上、死傷したとの見方を示した。

ロイター通信によれば、ワグネルの創設者プリゴジン氏は21日、ロシアのショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長がワグネルへの弾薬の供給を拒否し、ワグネルを崩壊させようとしていると批判した。日本政府関係者の1人も外国メディアの報道や政府発表を総合した結果として、「激戦が続いているウクライナ東部バフムトに投入されたワグネル戦闘員に対し、ロシア軍による十分な援護射撃が行われていない可能性がある」と語る。

地上戦闘において弾薬の欠乏は、勝敗に直結する重大な問題だ。第2次世界大戦では、米軍が侵攻した硫黄島や沖縄に砲弾を雨あられと降らせた。沖縄では今でも「鉄の暴風」の悲劇として語り継がれている。米戦争研究所などによれば、ロシア軍やワグネルが発射する1日あたりの砲弾数は、1年前の侵攻直後と比べると、大幅に減っている状況だという。

松村五郎・元陸上自衛隊東北方面総監によれば、ロシア側が発射する砲弾数が減った背景には、西側諸国がウクライナに供与した高軌道ロケット砲システム「ハイマース」の活躍もあるという。ウクライナ軍はハイマースの射程70〜80キロの砲弾を使い、ロシア軍が後方地域に配置した弾薬集積所を集中的に攻撃した。ロシア軍は昨年10月ごろから、集積所の位置をハイマースの射程圏外まで下げる措置を取ったため、一日に発射できる砲弾数が多少回復したが、1年ほど前の状態には戻し切れていないという。

困ったワグネルが頼ったのが北朝鮮だった。米国は昨年12月、北朝鮮が、ワグネルにミサイルや砲弾を提供したと発表した。ただ、松村氏は「砲身の口径が合えば、何でも撃てるというものではありません」と指摘する。同氏によれば、弾丸や砲弾には、発射の際に自旋運動をさせるために弾帯(Driving band)が装着されている。弾帯は柔らかく、砲身の内側に刻まれたらせん状の溝で削られながら旋回し、発射される。松村氏は「こうすることで、砲弾は横回転して安定して飛行します。砲弾と砲身が密着するので、ガスが砲身から漏れずに砲弾を強く圧迫し、射程を伸ばすことができます」と語る。

口径が合っているからといって、むやみに材質などが粗悪な砲弾を使うと、砲身が詰まって爆発事故を起こし、発射不能の状態に陥るという。北大西洋条約機構(NATO)は、こうした問題を解決するために、大砲や砲弾に共通の基準を導入している。
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文=牧野愛博

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