製造段階のCO2排出量を考慮した試算
米エネルギー省傘下のアルゴンヌ国立研究所によると、EVの製造にはより多くのパーツやプロセスが必要なため、ガソリン車やハイブリッド車、プラグインハイブリッド車よりも多くのCO2を排出するという。同研究所はGREETと呼ばれるモデルで、あらゆる側面で自動車が排出するCO2を推定している。しかし、それでもなお、自動車が引き起こす汚染の大半は、道路上の走行から生じており、すべてを考慮すると長期的にはEVが優れているという。
小型のガソリン車をテスラのモデル3などの60kWhのバッテリーパックのEVに買い替えたドライバーは、約1万8000マイル(約2万9000キロ)を走行した時点で、トータルのCO2排出量をガソリン車以下に抑えられるという。
また、プリウスなどのハイブリッド車に買い替えた場合は、4万5000マイル(約7万2000キロ)までは、排出量をEV以下に抑えられ、それ以降はEVのほうが優位になるという。さらに、9kWhのバッテリーの小型のプラグインハイブリッド車は、6万8000マイル(約10万キロ)までの間、最も環境に優しい選択肢になり、それ以降はEVが優れているという。
米国の平均的なドライバーの走行距離は年間1万3000マイル(約2万キロ)とされ、これを基に試算すると、EVは購入から3年6カ月以降にハイブリッド車よりもCO2排出量を抑えられる。また、プラグインハイブリッド車との比較では、5年目以降に優位に立てる。しかし、この試算はあくまでも「当面のところ」のものだ。
アルゴンヌのアナリストのジャロッド・ケリーは、これらのデータが、現状の米国の平均的な電力網を基にしたもので、今後の数年間でEVがハイブリッド車よりも優位に立つと述べている。
「ハイブリッド車で燃費を向上させるのは良いことだ。しかし、プラグインハイブリッド車であれ、EVであれ、電力網に接続する車が使用する電力のCO2排出量は、風力発電や太陽光発電の普及で、劇的に削減されることになる」とケリーは話す。
つまり、ハイブリッド車の販売台数の増加によって起こりうる広範なCO2排出の削減効果についてのトヨタの主張は、今は正しいとしても、長くは続かないかもしれない。また、ハイブリッド車は石油からの脱却を加速させるものでもない。
エネルギー省のローレンス・バークレー国立研究所の科学者のアモール・ファドケは、「われわれは、炭素排出を正味ゼロにする長期的な道筋について考えなければならない」と言う。
「ここで大事なのは、ある解決策が現在有効で、それが最大限の利益をもたらす解決策であったとしても、それが私たちをネットゼロへの道筋に導いてくれるのか、また、その解決策が長期的に費用対効果の高いものなのかを考えることだ」と彼は指摘した。
ファドケは、これまでの研究から電力のクリーン化が進むだけでなく、時間が経てばバッテリー材料の供給不足が解消され、EVの価格も下がると確信している。「長期的に見れば、バッテリーの価格は下がっていくはずだ」と彼は言う。ただし、それがいつになるかはまだわからない。