上場企業の創業者がエンジェル投資家に転身するケースは、日本では希少だ。今回はハワイで休暇中の宮本氏を、現地で取材した。
上場企業経営者のエンジェル投資参入を阻む「縛り」
宮本氏はネットマーケティングを創業する前、ベンチャーキャピタルのITXに勤務していた。当時、自身に経営経験がないことによって投資先への支援が疎かになってしまうことがあり、悔しい思いをしたという。そこで事業を見極める力を身につけ、自身で投資の意思決定ができる資金を手にしたいという思いを強めていった。宮本氏は2つを実現するためには、自身が起業して、会社を上場させることが最も効率的だと気付く。結果、同社を退職して、ネットマーケティングの創業に至った。そうしてエンジェル投資家になるという夢を叶えるためにネットマーケティングを上場させたものの、「当初から売却を考えていたわけではなかった」と宮本氏は説明する。
ネットマーケティングとして投資事業を手がけていた時期もあったが、上場企業の場合、事業シナジーや既存サービスの価値向上といった縛りが発生する。実際、宮本氏としては投資したいものの、会社の方向性とは違うということで投資を断念したケースもあり、宮本氏が本来、求めていた投資の形とはズレが生じていたという。
エンジェル投資というのは、「僕の歌を聞いてくれ」という起業家と、「あなたが好きだから」と投資するエンジェルによって生まれるものだ。歌がヒットするから投資をするというよりは、歌手の人間性やカリスマ性によって投資判断をすることが多い。
そうした投資基準は、ロジックでは語れない。宮本氏は自身がネットマーケティングから離れ、個人として自由な立場でエンジェル投資に尽力する方が理にかなっていると判断。同社の売却を決意したという。
米エンジェル投資家が支える「エコシステムの循環」
一方、米国では会社のエグジット(売却もしくは上場)を経験した経営者がエンジェル投資家になることは王道であり、「Pay it foward」(受けた親切を、別の人への親切で繋いでいく)という概念がシリコンバレーの共通認識としてある。そのため大成した起業家がエンジェル投資を通じ、自分自身が育ててもらったコミュニティーに還元することによって、エコシステムが循環している。
日本では昨今、スタートアップという言葉が使われ始めたものの、実際にエンジェル投資を経験した経営者は多くない。内閣府のデータによると、米国にはエンジェル投資家が約26.8万人いるのに対し、日本では800名程度だとされる。投資金額についても、米国では2.3兆円に上るが、日本では10億円程度と、三桁の差が開いている(※)。
我が国のGDPを向上させるには、未上場企業の成長が必須である。
「エンジェル投資家として、次世代の上場企業の投資家を輩出していく新たなロールモデルを作りたい」(宮本氏)
スタートアップが創業後、上場するまでの仕組みが米国にはでき上がっているものの、日本ではそれが十分に整備されていない。宮本氏は「先陣を切って取り組みたい」と意気込んだ。