サザビーズが10世紀のヘブライ語聖書「サスーン写本」を推定67億円で競売へ

サザビーズで競売にかけられる「サスーン写本」(Getty Images)

19世紀終わりから20世紀にかけてのヘブライ語、ユダヤ教聖書の著名な個人収集家で、1880年にバグダッドで生まれたデービッド・ソロモン・サスーンは、生涯を捧げて中東を横断し、究極の宗教資料コレクションを作った。収められた古写本とインキュナブラ(最初期の活字印刷物)は、アブラハムの信仰と呼ばれるユダヤ教、キリスト教およびイスラム教の起源に関する主として中世の極めて重要な見解を世界にもたらした。サスーンの驚くべきコレクションの目録「Ohel Dawid」は、彼の生涯をかけた作業の記録であり、その中でも「Sassoon 1053」、「サスーン写本」として一般に知られる写本は、現存する最も完全なヘブライ語聖書の1つとして注目を集めている。

Sotheby's(サザビーズ)は5月にそれを競売にかけると発表した。写本は所有者であるスイスの著名な投資家で映画プロデューサーのJ・E・ボーケアが出品し、正式に10世紀のものであると認められている。

サスーン写本の来歴についてはいくら強調しても足りない。この書物がサザビーの5月の競売で、書籍や写本として史上最高値で競売にかけられる見込みなのはそれが理由だ。この資料がもたらす恩恵も、価格にとって極めて重要だ。宗教学者や文学界全般が、デービッド・ソロモン・サスーンに負っている恩義は計り知れない。バグダッドの名高いユダヤ人家族の子孫で、バグダッドとムンバイの著名な綿花貿易人、デービッド・サスーンの孫であるサスーンは、人生の早い時期に、ユダヤ教誕生に関する中世の記録(写本およびインキュナブラ)が、北アフリカと中東を横断してユダヤ人社会に広く届けられたこと、その宝物の一部は良い状態で保存されているが、大部分が深刻な消失の危機にあることに気づいた。

サスーンの探究の旅は遠く広い範囲へと彼を導いた。個人的収集はバグダッドに始まりモロッコ、トルコ、イエメン、シリアにおよび1915年までに500点を超える写本が集まった。1932年、サスーンは2倍以上の1200点を収録したコレクション目録であるOhel Dawid を発行した。彼はシリアのアレッポから、14世紀後半にフランスで転写されたといわれているFarhi Bible(ファーリバイブル)を入手し、1915年にはDamascus Pentateuchをダマスカスから入手した。コレクションの中には、モーシェ・ベン・マイモーンによる実に頓知のきいたタイトルがつけられた「Guide for the Perplexed(迷える人々の為の導き)」の手書き本もあり、サスーンはそれをイエメンで入手したが、それは1397年にスペインで転写されたものだった。

サスーンは1942年に死去した。現代では節税ツールとして利用されているオフショア信託のない時代だった。英国の固定資産税を清算するために、今や名高いコレクションの数々は、1975年から1990年代中頃にかけて競売にかけられたり英国の諸団体に寄付されたりした。それが現在英国図書館がサスーンの写本を数多く保有し、エルサレムのイスラエル国立図書館が「モーセ五書」を手に入れた方法だ。トロント大学はサスーン一家のコレクションの残りを保有している。

中世のサスーン写本の希少性と歴史的価値を最もよく表しているのが、その完全さだ。サスーン写本は「Pentateuch(モーセ五書)」「Prophets(預言者)」「Writings(諸書)」の3部からなり、現在旧約聖書と呼ばれているものに最も近い書籍形式の資料である。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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