政治

2023.02.16 10:30

気球やTikTokだけじゃない WeChatという中国の「侵入口」

Getty Images

中国人にとって、WeChatからの追放はただごとではない。健康QRコードからオンラインサブスクリプションまで、WeChatのアカウントと紐づけられたデジタルサービスがすべて利用できなくなり、デジタル上「存在しない人」になるも同然だからだ。もし政府に許可されて新しいアカウントをつくれたとしても、再びデジタル上に存在できるようになるには、数日、あるいは数週間かかるかもしれない。
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とはいえ、検閲はWeChatにまつわる問題のほんの1つにすぎない。投稿や検索結果などが制限されるユーザーは中国本土の電話番号を登録している人に限られるが、WeChatを通じた監視の対象は広範囲に及んでいるのだ。

気づかぬうちに「スパイ」に

それには、留学生やビザ保有者など米国に住む中国人ユーザーも含まれる。現在、米国にはWeChat登録者が約150万人、英国にも130万人、オーストラリアには60万人ほどいる。もちろん、こうした海外在住ユーザーは、母国の友人や家族との連絡といった無害な目的でこのアプリを利用している人がほとんどだろう。だが、中国政府がさまざまなバックドアを通じてユーザーの位置情報や個人データにアクセスし、送受信されるメッセージを第三者が閲覧できるということは、望むと望まざるとにかかわらず、在外中国人は中国政府の手先としてスパイ活動に従事させられるということにほかならない。

WeChatが十数億人のユーザーから集めているデータは、運営会社のテンセントによって管理されている。テンセントは以前、政府から下された指示の実行が遅いとして中国政府との間で問題になったこともある。最近は、中国当局がWeChatの特定のデータをほしいと考えた場合、彼らは米国在住者のものを含めて、どんなデータも入手できるだろう。

すべてのデータは香港へ

WeChat側は、サーバーが中国本土外に置かれていると説明することで問題を回避しようとしてきた。実際はどうか。WeChatのユーザーデータはすべて香港のサーバーに送られている。確かに香港は「本土外」と言えるのかもしれない。だが、香港では新たな国家安全法のもとで、データサーバーは本土の場合と同様に中国政府の命令に従うことが求められている。つまり、ここでは香港と本土の間に違いはないのだ。

さらに一部の研究者は、WeChatのアプリにはスパイウェアが含まれている可能性があるとの見解を示している。スパイウェアは、WeChatがダウンロードされているスマートフォンを介して、中国人以外のユーザーも被害に遭うおそれがある。
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以上を踏まえると、WeChatは、中国共産党が在外中国人を監視し、思想的に統制するのを可能にする邪悪な手段であるばかりか、安全保障上の深刻な脅威にもなっているという実態が浮かび上がる。憂慮すべき事態だ。

TikTokと同じように、WeChatに対しても声を上げて関係を断ち切るべきときが来ている。WeChatを全面的に禁止すれば、米国人に関するデータが中国政府の手に渡るのを防げるだけでなく、在米中国人たちを中国の習近平国家主席によるソーシャルメディアの管理統制から解放することもできるはずだ。

forbes.com 原文

編集=江戸伸禎

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