「ようこそ、サフランの里へ」
迎えてくれたのは、「AKAITO」創業者のマーク・リー・フォードさん。日本で20年ほど暮らし、IT系の企業家でもあるマークさんは、中東産サフランの日本への輸入を検討するなか「日本でも実は300年前からサフラン栽培がおこなわれていたと知った」と話す。「古代メソポタミアの時代から使われていたサフランが九州へ渡ったようです。以前は漢方の薬剤として服用されていました。サフランには血行を促進するなどの効果が認められており、この辺りの人は昔からサフランを自家栽培し、お茶にして飲んでいたそうですよ」
一緒に旅をした「ロオジエ」エグゼクティブシェフのオリヴィエ・シェニョンさん(右)。サフラン生産者の西喜佐雄さん(左)と。
「いま(取材時は11月)はちょうど花が咲いていますから見ていって」と招かれたのは古ぼけた小屋。照明もなく、薄暗い室内をのぞくと、まず気づいたのは香りだった。開け放された窓から風に乗ってきたのは、甘いけれどくどくなく、優美で気品のある香り。
これは一体? と目をこらすと、そこには球根から花茎を伸ばし、薄紫の花弁を揺らすサフランが無数に咲いていた。サフランは花のメシベとは知っていたけれど、球根だったのか……。
秋咲きのサフランは球根を稲刈り後の田んぼに植え、豊かな土壌で大きくしてから、田植えの季節の前に堀り出し、1個ずつポットに入れて室内で栽培。稲作の裏で田んぼを活用できる二毛作だ
「サフランはアヤメ科、クロッカスの一種で、この1輪から3本しかとれません。花を摘むのも、メシベを採取するのもすべて手作業。労働力に対してきちんとした対価を支払うゆえに高価ですが、このまっすぐで美しいメシベの長さと繊細な香りの強さ、バランスの良さが国産サフラン『AKAITO』の魅力です」
「世界で流通するサフランは主にイラン産。その生産地ではこどもたちや女性が過酷な環境下で長時間労働を強いられています。低賃金で安価に採取されたサフランは、その後多くの中間業者にマージンを搾取され、結果として世界でもっとも高価なスパイスとなるわけです。
一方で、『AKAITO』がめざすサフランはよりエシカルで持続可能性の高いもの。日本の伝統的な栽培方法と、我々が提供する最先端の研究開発、そして比類のない品質を組み合わせることで、その力を発揮できると確信しています。また、日本の限界集落や高齢の農家の方々が世界のトップレストランをつながることで、地方が抱える様々な問題に光をもたらすことも『AKAITO』の使命のひとつです」
高齢者中心の限界集落となった早ノ瀬地区において休耕田と空き家を活用するのも、倫理的でソーシャルなビジネスを展開する「AKAITO」らしい取り組みだ。