政治

2023.02.07 12:30

気球撃墜に中国が反発する本当の理由

さらに米国は、中国が現在、同じような気球を他の場所でも運用していることや、以前にも複数回、米国上空にスパイ気球を飛ばしていることも明らかにしている。それも踏まえると中国の反応はますます説得力がなくなってくる。

米国人の気球が撃墜されたケースも

特に、今回の撃墜が「国際慣例の違反」だとする主張はあまりに不当だ。過去には、米国人の乗る気球が領空防護に熱心な国を飛行中に撃墜された例もあるからだ。

1995年にはベラルーシで、ゴードン・ベネット気球レースに参加していた米国人2人の気球が、ベラルーシ当局に承認されていた計画に従って飛行していたにもかかわらず、撃墜された。米国人の他の2チームも着陸を命じられ、適切なビザ(査証)の交付を受けていなかったとして罰金を支払わされている。

国際的な公式調査では、気球側とベラルーシの航空管制側との連絡不足など、多くのミスや安全上の問題が特定された。気球の操縦士たちがトランスポンダー(応答装置)をオフにしていて警告に応答しなかったうえ、ベラルーシの管制側には気球がポーランドから漂流してきた観測用気球のように見え、性急に撃墜してしまったとされる。

気球が軍事基地や飛行制限区域に近づき、交信しようとしても反応がなかったため、危機感を募らせたベラルーシ当局は武装ヘリコプターに迎撃命令を出し、気球を撃墜させたという。

レース主催者と気球のクルー、ベラルーシ軍それぞれのミスが重なって起きたこの事件は確かに不幸な出来事だったが、撃墜自体は合法であり、国際的な行動規範にのっとったものでもあった。

中国が憤慨した本当の理由は、お得意の影響力構築戦術を米国に蹴散らされ、動揺したからだろう。中国はグローバル・コモンズ(国際公共財)で長年つちかわれてきた行動規範を乗っ取り、リセットすることに情熱を注いできた。大気上層部の無制約な使用を拒まれた中国は今後、強い反応を示すかもしれない。中国が不当に領有権を主張する国際空域で活動する偵察機にプレッシャーをかけたり、撃墜したりしようとする可能性もある。

米国が見せた決意を中国側が懸念しているのは間違いない。また、米軍機が比較的安価な空対空ミサイル「AIM-9Xサイドワインダー」で偵察気球を破壊できることがわかったことにも、中国側はショックを受けているはずだ。中国による国際規範の一方的な解釈に対して、サイドワインダーを保有する他の国々も同様の行動で抵抗し始めれば、中国のスパイ気球がたちまち姿を消していくだけでなく、中国が市民社会を脅すために用いてきた戦術のツールボックス全体も一気に無効化されるかもしれない。

forbes.com 原文

編集=江戸伸禎

ForbesBrandVoice

人気記事