社会科学を変えたベイズの推論―スマホは子どもの鬱の原因か
この数十年間で科学や社会科学のアプローチを一変させたベイズの推論は、世界をとらえる科学的手法と完璧に符合する。ベイズの法則は、実験家が収集したデータ(D)と、理論家が立てたそのデータに関する仮説やモデル(M)、そのふたつの要素を結びつけるのだ。たとえば、こんな科学的仮説について考えてみよう―携帯電話の使用は、10代の子どもの精神衛生に悪い影響を及ぼす。これは私の家庭で盛んに議論されている問題だ。実際、私の家庭のふたりの子ども(と、公正を期すために言っておくと、ふたりの大人)は、一日じゅう携帯電話の画面とにらめっこしている。私が子どものころ、両親は私が今どこにいるのか、何をしているのかと四六時中心配していたけれど、今の妻と私の心配の種はそこじゃない。むしろ、子どもたちがずっと座り込んで、携帯電話の仄青い光を見つめてばかりいることのほうだ。「どうして門限までに帰ってこない? 今まで誰と一緒にいた?」という古きよきお小言は、私の家ではまず聞く機会がない。
社会学者で、子育てや生産性に関する自己啓発本を何冊か著わしているクリスティン・カーター博士は、携帯電話の使いすぎに断固反対し、「画面を見つめる時間こそが、おそらく10代の若者のあいだで急増している鬱、不安、自殺の元凶である」と記している。彼女はカリフォルニア大学バークレー校の『グレーター・グッド』誌内の論文で、その主張を2段階に分けて繰り広げている。
第1段階で、彼女は親たちのアンケート結果を引用している。親の半数近くは子どもがモバイル機器に「依存」していると考えており、親の半数はそのことが子どもの精神衛生に悪影響を及ぼしていると心配していた。続く第2段階では、幸福感、人生への満足度、社会生活に関する14の疑問に答えたイギリスの12万115人の若者の調査データを引用した。調査の結果、たったの1時間を境に、スマホの使用時間が長い子どもほど、そのアンケートで測定された精神衛生の度合いが低かった。つまり、携帯電話を使えば使うほど不幸になるという言い方ができる。