アート

2023.02.04

金沢から世界へ 新しい工芸・ラグジュアリー戦略の突破口とは

アートコミュニケーターの和佐野有紀 =2022年12月「KOGEI Art Fair Kanazawa」会場で、筆者撮影

イノベーターがアートを購入する理由

アートフェア会場では、アートコミュニケーターで医師の和佐野有紀が「KOGEI as luxury」と題して、新しい工芸マーケットに必要な視点を語った。現代アートコレクターの購買行動をめぐるマーケティングリサーチをもとに、ラグジュアリー戦略について解説した。

慶應義塾大学大学院時代のリサーチで、和佐野は日本で70人以上の現代アートコレクターにインタビュー調査をしたところ、コレクターには年齢±9歳程度のクリエイターの表現が響くこと、ライフステージの変化がアートコレクションのきっかけになることが分かったという。「作品が生まれた背景や文脈を理解し、価格を妥当だと感じた人が購入している。またコレクター自身のライフステージが変化する30、40代で、作品を購入し、アーティストが思ってもみない形で新たなストーリーが作品に上書きされる事例も少なくない」と分析する。

さらに約550人を対象にした定量分析では、より「崇高な体験をしたい」という動機付けと価格のバランスが取れているかという点が重視されていることが分かった。現代アートマーケットを購買量・金額ともに牽引するコレクターは、より作品の背景や内面に着目し「知らない世界を見せてくれる」といった知的欲求のもと強い購買モチベーションを持つ高所得者層であったという。

また、現代アートコレクターのモデルをバランス調和型、インテリ型、オタク型、未成熟型の4つのパターンに分類すると、イノベーター気質なインテリ型は購入者のうち全体の13%だったが、購入額では約7割に上った。調査結果から、アート化する工芸の魅力を一線で活躍するビジネスパーソンに対して訴求する重要性がうかがえる。

ファッショナブルな作品も。多治見市文化工房 ギャラリーヴォイスから出品した、中村寿美の「ぐい呑み」だ

ファッショナブルな作品も。多治見市文化工房 ギャラリーヴォイスから出品した、中村寿美の「ぐい呑み」だ

工芸にラグジュアリーな視点を

日本の伝統工芸は、細やかな手仕事の技術から「超絶技巧」と評されることもあるが、アートとしての価値を高めるためにはそれだけでは充分ではない。モノからコト消費へと言われて久しいが、工芸においてもその流れを汲む必要がある。

「ラグジュアリー化するためには、ものの品質を極限にまで高めるだけでなく、原材料の調達や加工にまつわるストーリーから流通経路まで、消費者に対して可視化されていることが望ましい」と、和佐野は指摘する。作り手のストーリーを共有し、顧客が経験価値として知覚されることで、より共感を生み、購買行動を生み出すという。

また、それぞれの工芸が根差す地域との「ゆるくしなやかな利他関係」を築くことで、持続可能なエコシステムが作られる。この際に大切なのは「両者に利得がある仕組みをつくり、それぞれの利己を利他に変えていく」という点だ。「KOGEI Art Fair Kanazawa」が構築しようとしているのも、金沢一強ではなく、北陸地域で点として多数存在する工芸コンテンツを繋ぎ、金沢から全国の工芸を世界に発信していく狙いがある。
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副実行委員長の浦は取材で「工芸の多様性」についても触れた。地域に根差した技を継承するには、代々継ぐだけでなく、地域外からの人材も柔軟に取り込み、アート化する「KOGEI」までさまざまな形で発展している。

「多様化というのは推し並べて進めるのではなく、特に工芸はとてもローカルなテーマであり、地域から発展していくのが自然な流れ。今後はさらに工芸と社会との接点を作り、社会に貢献していくことで、マーケットとしてもより広がっていくのでは」と展望を語る。

知られざる工芸の魅力を次世代にどう伝えていくか。世界に広げるストーリーテラーが求められている。

アートピースとして取り入れたい現代的な作品が多く出展されていた

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文=督あかり 写真=​​広村浩一(Moog LLC.)

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