「プロダクトアウト」は本当に悪なのか? 人々を虜にする商品のつくりかた

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理由2:POD(差別化点・参入障壁)がつくりづらいから

商品やブランドにおける最も重要な強みや参入障壁は何か。もちろんいろんな意見があるだろうが、やはり一番は「独自技術」だと思う。

例えばスキンケアブランドのSK-IIにはピテラという成分が、ザ・プレミアム・モルツには神泡製法が、ゲーミングチェアのAKRacingには人間工学に基づいた疲れないデザインが、存在している。

これらはその企業独自のものであり、だからこそ他の商品と差別化され、競合は真似をするのが難しいはずだ。そして、これらの商品は「技術シーズ」がなければ成立しえない。

近年はOEMで何でもつくれるようになった。これは素晴らしいことだ。一方で、技術シーズなしのマーケットイン合戦は、最終的に価格競争になってしまう。そうなれば収益を担保するのは極めて難しい。

理由3:人々が熱狂するようなストーリーがないから

もしかしたら一番大きなポイントはこれかもしれない。

2023年現在において、人がブランドに求めるものは「歴史」と「ストーリー」であろう。前項で「独自技術」に触れたが、正直そういった技術の優位性そのものがなくなってきており、コモディティ化しているのも真実だ。

「何を買うか」から「誰から買うか」に確実に時代は移ってきている。そして、誰から買うかにおいて最も威力を発揮するのは、「狂人」が異常なる愛を注ぎ込んだ商品であろう。いつの時代も、人々を感動させ虜にするのは、自己中心的な偏愛である。そして、その偏愛がマーケットインにつくられることはあり得ない。

例えばiPhoneなどその最たる例だ。スティーブ・ジョブズがアプリの角を滑らかな丸にすることに異常にこだわったことや、より軽くするために試作品を水に沈め、ぶくぶく泡が出たから「まだ余地がある」と言ってのけたことなど伝説には事欠かないが、そんなことを求めていた消費者はどれくらいいただろう。このような異常ともいえる偏愛があるからこそ、アップルファンはアップルファンであり続けるのである。

ストーリーが競争戦略の中心になる時代において、ストーリーの源泉となるような要素を削り取って、分かりやすく消費者が求めているものをつくるのは、大きなブランドをつくるうえでは逆に障壁になり得るだろう。

最後に、ここまで「プロダクトアウトでないと勝ち残れない」3つの理由を説明したが、もちろん消費者の声をちゃんと聞くことも忘れないでほしいとは思う。

一方で、マーケットインなやり方に行き詰まりを感じているのであれば、思い切ってプロダクトアウトに「これを売りたい!!」という偏愛にしたがってみるのも、2023年現在においては新しいアイデアを生み出すかもしれない。

文=石井賢介

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