経済協力開発機構(OECD)が加盟国とパートナー諸国を対象に2021年に行った調査によると、36カ国中、購買力平価で調整したフルタイム労働者の平均年収(税込み)が最も低かったのはメキシコで、1万6429ドル(約213万円)だった。インフレ調整後の平均年収は1990年以降、わずか6%の増加にとどまっている。
ただ、2022年より前に頻繁にインフレが起きたわけではない国でも、経済の低迷により、賃金の伸びが数十年にわたってほとんど見られなかった国もある──先進国の一国であり、物価も比較的高い日本は、購買力平価で調整したフルタイム労働者の平均年収(税込み)が、わずかながらもイタリアとリトアニアを下回っている。
日本の平均年収は1990年、カナダ、オーストラリア、ドイツとほぼ同水準だった。だが、それからおよそ30年の間に、これらの国の賃金が30%代半ばから40%の増加という大幅な伸びをみせるなか、日本でそうした変化は起きなかった。
変化を嫌う国?
1990年代には技術分野のパイオニアだった日本はその後、イノベーション能力を失っている。長年にわたって経済の低成長と低インフレが続き、さらにはデフレも経験した日本は、変化を嫌う企業文化もあり、物価、賃金、さらにはその他すべてのものの大半が、停滞してきた。こうした状況を招いたのは、低賃金の分野で働く短期契約・パートタイム契約の労働者が増加したことでもある。これがもう一つの大きな要因となり、日本でも起きた可能性のある全体的な実質賃金の上昇が、実際には起こらないものになってしまった。
一方、日本と同じような状況がみられるイタリアは、主に経済の停滞、高賃金の産業の不足、全体的な先行きの不透明感が、その主な要因となっている。こうした特徴は南欧のその他の国々、例えばギリシャやスペインなどにもみられる。