慶應義塾大学とキリンホールディングスによる研究グループは、30歳から64歳までの健常な成人34人を対象に、熟成ホップ由来苦味酸を摂取して認知機能課題を行った際の総自律神経活動を検証する臨床試験を行いました。これは、ランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験という方式で行われました。平たく言えば、被験者を2つのグループに分けて、どちらかに本物の成分、もう片方には偽薬を与えて実験を行い、次に本物と偽薬を入れ替えてもう一度実験を行うという方式です。これなら、被験者はもちろん、試験を実施する側にも、どちらに本物が与えられたかわからない状態となり、公正な検証ができるというわけです。それにより、熟成ホップ由来苦味酸を摂取した場合に明らかに向上することがわかりました。
ホップは古くから薬草として用いられ、その健康効果が知られていました。キリンではすでに、ホップの苦味成分がビールの醸造過程で変化して生まれる「イソα酸」という成分にさまざまな健康作用があることを解明していました。しかしイソα酸は苦味が強く、食品として製品化するのが困難でした。そこで、苦みをまろやかにする熟成ホップに着目したところ新たな成分が発見され、それをキリンは「熟成ホップ由来苦味酸」と名付けたのです。
この熟成ホップ由来苦味酸には、体脂肪の低減、アルツハイマー病の予防、加齢にともなう認知機能低下の抑制、うつ様行動の抑制といった効果が認められています。自律神経のひとつである迷走神経を介して認知機能や精神機能を改善するとのことですが、そのメカニズムは検証されていませんでした。そこで今回、初めての臨床試験を実施したわけです。
ビール好きなら「おおっ!」と喜びたくなる研究結果ですが、ビールを飲むと頭がポワーっとするし眠くなるし、注意力が高まるという話とは矛盾する気がします。これはあくまで、熟成ホップ由来苦味酸という成分の話であって、ビールを飲むと頭が冴えるということではないみたいです。当然ですね。とは言え、この研究結果はキリンのビール造りから生まれたもの。ビールのお陰です。ビールを飲みながらこんなウンチクを語れば、ビールがさらにおいしくなることでしょう。