花王 ハウスホールド研究所は、理化学研究所、脳神経科学研究センター細胞機能探索技術研究チーム、 北里大学大村智記念研究所、埼玉大学発のバイオベンチャーEME(Epsilon Molecular Engineering)と共同で、 VHH抗体に蛍光タンパク質を組み合わせた融合タンパク質を用いて、 繊維に付着した新型コロナウイルスを簡便に可視化できる可能性を見出した。
花王は、これまで開発した新型コロナウイルスに結合するVHH抗体と高輝度な蛍光タンパク質を連結した融合タンパク質を用いて、感染後の新型コロナウイルスの動態や感染者の診断への応用を検討してきたが、今回、環境中のウイルスの簡便な可視化技術の検討を実施した。
新型コロナウイルスをパラホルムアルデヒドで処理し、感染能をなくした上で、ウイルスRNAを染色するSYTO82、Sタンパク質に結合するKikG融合VHH抗体を加えて染色ウイルス粒子を調製。作製したウイルス粒子をポリエステル布に滴下して繊維にウイルスを付着させ、蛍光顕微鏡で観察したところ、繊維上にウイルス由来の蛍光(SYTO82)とKikG融合VHH抗体由来の蛍光が同じ位置に検出された。
この結果は、繊維に付着したウイルス粒子を、KikG融合VHH抗体由来の高輝度な蛍光で可視化できる可能性を示している。さらに、ウイルスが付着した布を衣料用洗剤で洗たくしたところ、KikG-VHH融合タンパク質由来の蛍光が、繊維上から顕著に減少することも確認できたという。
プレスリリースより
今回の検討により、繊維上でもウイルスを可視化できる可能性が示された。これまで電子顕微鏡などでしか確認できなかった環境中のウイルス粒子が、高輝度な蛍光タンパク質と分子サイズが小さく高い結合性能を持つVHH抗体とを合わせた融合タンパク質によって、簡便に観察できる可能性があるという。
今後はこの技術を応用することにより、たとえばノロウイルスのような環境中のさまざまなウイルスの存在状態をも簡便に観察できるようになるかもしれない。さらに、繊維上のウイルスが付着しやすい部位、また衣類以外の環境に付着したウイルスとその除去の状態を可視化することで、ウイルス除去の技術開発に役立つことが期待できるという。
花王は今後も、VHH抗体を応用したウイルス制御技術、可視化技術の深化により、新型コロナウィルスをはじめとする感染症の脅威から命を守り、人々が安心して生活できる社会の実現を目指していく。