【ダボス2023リポート】リスキリング革命で目指す、人的資本の向上と働き方の未来

Photo by Dursun Aydemir/Anadolu Agency via Getty Images

──人的資本について伺います。日本では2023年から大企業に対して人的資本関連情報の開示が義務付けられることになり、「人への投資」に対する注目度が一気に高まっています。従業員エンゲージメントの向上をはじめ、人的資本の向上に積極的に取り組む企業は投資家から高い評価を受けやすくなると思いますか。

米国や欧州、アジアではESGの「S」(社会)にどう取り組むのがベストかという議論が続いていますが、私は気候関連の情報開示に関して、この数年で起きていることに学ぶべき点があると思います。

格差が拡大し、社会の二極化が進む一方で、日本を含む世界の一部では労働市場が比較的堅調に推移しているように見えます。しかし、景気後退や長引く不況が発生した場合、必ずしもその状態が続くとは限りません。ですから今こそ、企業や投資家はESGについて考える必要があるのです。

ESGの「S」の情報開示に関しては、国際的な基準を設けることの重要性が高まっています。しかし同時に、市場によって置かれた状況は異なるため、ローカルにカスタマイズする余地を残しておくことも非常に重要です。

──人的資本への投資は、経済や環境の持続可能性に良い結果をもたらしますか。

もちろんです。人的資本への投資がなければ、企業は成長や創造、革新のために必要な人材を確保することができません。マクロ的な側面において、これは何度も証明されていることです。

最も成功を収めている経済圏は、教育に投資している国です。生涯の初期段階における教育だけではなく、労働者の再教育やスキルアップを継続的に行うことは、将来に向けた最良の方法のひとつです。

また、気候変動対策においても人的資本への投資は重要な要素です。もし、人々にブラウン・エコノミー(石油資源中心の経済)からグリーン・エコノミー(環境に配慮した経済)の分野へと転換するためのスキルがなければ、公正な転換は望めません。

また、転換に向けた政治的なサポートも、グリーン・エコノミーや私たち自身の行動変革の実現において重要です。多くの側面から、人的資本への投資を拡大することが求められているのです。しかし、教育やリスキリング、学び直しのための予算は削減傾向にあります。社会全体を変革するためには官民ともにより一層、力を入れる必要があります。
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文=瀬戸久美子

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