文化庁のホームページによると、制度発足以来12年で、44件の展覧会に美術品補償制度が適用されていた(2022年12月21日現在)。
海外から美術品を借り受けて行う展覧会は年間約200展以上あることを考えると、本制度の十分な活用には課題が残る様相だ。
少なくとも現状の制度下において、多くの美術館では、企画展で借用する美術品に対して自前で民間保険を掛け、運送時や展示時に発生する損害に備えざるを得えない。
日本における美術品の損害事例
さて、日本でも美術品が損害を受けたケースは、毎年数件発生している(図表2)。
意外に多いのは、自然災害による損害だ。図表に載せたものは単品被害の例だが、例えば、2019年の東日本台風では約22万9000点の収蔵品が浸水するなど、天災に起因する大規模損害が発生している。
文化庁では、被災した美術工芸品を中心とする文化財などを緊急に保全し、廃棄や盗難の被害を防ぐ「被災文化財等救援事業(文化財レスキュー事業)」を1995年の阪神・淡路大震災を契機に立ちあげた。2016年の熊本地震では、被災した動産文化財3万7000点が救出されている。
より割安になった美術館向け保険
ところで、民間の美術品保険はどのようにかけるのか。保険会社に聞きに行ったところ、思いもかけない事実が浮かび上がった。
日本の場合、外部美術館から借用する、企画展で扱う美術品についてはほぼ全ての作品に保険が付けられている。一方で、各美術館の所蔵作品については、どうやら、ほぼ無保険の状態らしい。
美術品をはじめ、モノにかける保険は、その価値を踏まえ、経済的な損失をベースに保険料を算出するのが一般的。そのため美術品保険の場合も保険料負担は重くなる現状がある。そのため、厳しい経営状況の美術館で、常設で展示するような所蔵作品の損害に関しては、修復費予算で運用されているところが少なくないという。
だが最近では、作品の経済的損失ではなく、修復費用だけをカバーする割安な美術館向け保険も登場してきており、一考の価値はありそうだ。