人工呼吸器を使って生活する障害者たちの姿を描いた作品で、冒頭のナレーションが「人工呼吸器は呼吸を助ける道具です」と語り掛ける。延命治療の手段ではなく生きることを補助するためのものだという呼びかけだ。
主役の海老原宏美さんは、神奈川県東大和市在住。筋力が徐々に低下する脊髄性筋萎縮症で肺を圧迫されて人工呼吸器を使い、24時間の重度訪問介護を受けて一人暮らしをしながら障害者の地域生活を支援する仕事もしていた。
海老原さんの「できないことはいろいろあるけれど、障害者が唯一できる大きな仕事は、外に出て、人目に触れて、人の意識の中に障害者の存在を少しでも根付かせていくこと」という言葉は、押富さんが日ごろ考えていたこととぴったり一致した。上映会を絶対にやりたいと思った。
「人工呼吸器を付けていても」
2016年3月13日。愛知県尾張旭市の文化会館あさひのホールで、実行委員長としてマイクを握った押富さんは、会場を埋めた240人の参加者に語りかけた。「私自身が在宅生活をすると決めたとき、どんな生活が待っているのかについての説明はまったくありませんでした。だから、呼吸器を着けたまま遊びに行けるなんて考えてもみませんでした」。
「生きている意味がない、家族に迷惑がかかる。そんな理由で生きることをやめないでほしい。人工呼吸器を付けていても普通に楽しい生活を送ることは自分次第で可能です」
インクルーシブな社会づくりを目指す障害者差別解消法が制定される直前の時期だった。人工呼吸器の助けを借りて自分の人生を歩む映画の中の障害者たちと、冒頭の押富さんのスピーチは、二重奏になって参加者たちの心に染み入った。そして、同年10月に認証されたNPO法人ピース・トレランスの活動の土台になっていった。
会場にいた地元FM局ラジオサンキュー(愛知県瀬戸市)のパーソナリティー林ともみさんは「あんなにしっかりした活動になるとは想像もしていませんでした」と振り返る。
林さんの長女も染色体異常に起因する知的障害と身体障害があり、子育ての傍ら、福祉関係のゲストとトークする「ともみとともに」を週2回続け、街づくりのNPOの理事長も務めてきた。仲間集め、イベント運営の大変さも熟知していた。
上映会のPRを兼ねて番組に出てもらったとき、実行委員がまだ5人と聞いて「大丈夫かな」と心配になっていた。