映画

2023.01.12 17:00

藤ヶ谷太輔主演、現実から逃避し続ける日々を描く映画「そして僕は途方に暮れる」

裕一がたどり着いたのは、幼馴染で同じように北海道から東京に出てきていた今井伸二(中尾明慶)の部屋だった。2人の友情を言葉にする伸二に少し辟易しながらも、裕一はわが家のように振る舞い、洗濯までさせる。しかし、温厚な伸二から真夜中までテレビを見続ける裕一は怒りをぶちまけられ、またしても荷物をまとめて逃げ出す。


里美(前田敦子)は裕一の浮気を問い詰める(C)2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会

バイト先も一緒で大学時代の映画サークルの先輩の田村修(毎熊克哉)の部屋からも1週間で飛び出し、後輩で映画の助監督として働いている加藤(野村周平)や昔から折り合いの悪い姉の香(香里奈)にまで、裕一は一夜の宿を求めて訪ねるが、いずれも不調に終わってしまう。

ついに行く宛のなくなった裕一は、フェリーに乗り故郷である北海道の苫小牧を目指す。たどり着いた実家には母の智子(原田美枝子)が1人で暮らしていたが、彼女は妙なサークルに染まっており、そこからも裕一は逃げ出す。

クリスマスが近い雪の降るなか、途方に暮れていた裕一が出会ったのは、かつて家族から逃げていった父の浩二(豊川悦司)だった……。


(C)2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会

宣伝の惹句には「『すべてを捨てて逃げ出したい』衝動を赤裸々に描く《現実逃避型》エンタテインメント!」とあるが、作品では日々の暮らしから次々と遁走し、独りで彷徨する主人公がひたすら描かれていく。好き嫌いはあるかもしれないが、その姿はなかなか興味深く、いつのまにか主人公の心情へと同化していく。

果たして彼が最後はどこへとたどり着くのか、後半、二転三転の展開もあるが、観ているうちに主人公の行動から目が離せなくなるのは確かだ。それがエンターテインメントと呼べるかは別として。

舞台と映画の双方で高評価の三浦監督


監督は、原作の戯曲を執筆して舞台にのせた三浦大輔。三浦は自らの演劇ユニットを主宰し、数々の劇場公演を成功させる一方で、映画監督としても活躍している。

2010年に「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(花沢健吾原作、三浦大輔脚本)で商業映画デビューを果たすと、2014年には自作で岸田戯曲賞受賞作「愛の渦」を映画化し、注目を集める。

2016年に「何者」(朝井リョウ原作)、2018年には「娼年」(石田衣良原作)と、立て続けにベストセラー小説の映画化の監督と脚本を務め、映画監督としても、その緻密な演出力や湿度の高い表現力は高い評価を得ている。
次ページ > 作品全体を「映画というもので包む」

文=稲垣伸寿

ForbesBrandVoice

人気記事