里美(前田敦子)は裕一の浮気を問い詰める(C)2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
バイト先も一緒で大学時代の映画サークルの先輩の田村修(毎熊克哉)の部屋からも1週間で飛び出し、後輩で映画の助監督として働いている加藤(野村周平)や昔から折り合いの悪い姉の香(香里奈)にまで、裕一は一夜の宿を求めて訪ねるが、いずれも不調に終わってしまう。
ついに行く宛のなくなった裕一は、フェリーに乗り故郷である北海道の苫小牧を目指す。たどり着いた実家には母の智子(原田美枝子)が1人で暮らしていたが、彼女は妙なサークルに染まっており、そこからも裕一は逃げ出す。
クリスマスが近い雪の降るなか、途方に暮れていた裕一が出会ったのは、かつて家族から逃げていった父の浩二(豊川悦司)だった……。
(C)2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
宣伝の惹句には「『すべてを捨てて逃げ出したい』衝動を赤裸々に描く《現実逃避型》エンタテインメント!」とあるが、作品では日々の暮らしから次々と遁走し、独りで彷徨する主人公がひたすら描かれていく。好き嫌いはあるかもしれないが、その姿はなかなか興味深く、いつのまにか主人公の心情へと同化していく。
果たして彼が最後はどこへとたどり着くのか、後半、二転三転の展開もあるが、観ているうちに主人公の行動から目が離せなくなるのは確かだ。それがエンターテインメントと呼べるかは別として。
舞台と映画の双方で高評価の三浦監督
監督は、原作の戯曲を執筆して舞台にのせた三浦大輔。三浦は自らの演劇ユニットを主宰し、数々の劇場公演を成功させる一方で、映画監督としても活躍している。
2010年に「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(花沢健吾原作、三浦大輔脚本)で商業映画デビューを果たすと、2014年には自作で岸田戯曲賞受賞作「愛の渦」を映画化し、注目を集める。
2016年に「何者」(朝井リョウ原作)、2018年には「娼年」(石田衣良原作)と、立て続けにベストセラー小説の映画化の監督と脚本を務め、映画監督としても、その緻密な演出力や湿度の高い表現力は高い評価を得ている。