大統領選でルラは現職だったボルソナーロを僅差で破った。ボルソナーロは伐採業者と農民に、ブラジルの広大な熱帯雨林と先住民の故郷を好き放題に扱わせた。その破壊は野生動物と自然生息地にとって致命的なものとなった。それは温室効果ガスの増加につながり、地球環境を洪水や干ばつが当たり前になる分岐点まで押し出すことになった。ルラはこの流れを変えることを誓っている。果たしてできるだろうか。
「大豆の生産は森林と農業の間に緊張関係を生み、先住民に悪影響を与え、さらに温室効果ガスを発生させる。市場の不完全性は、先住民が森を守り二酸化炭素(CO2)を貯蔵することに対して適正な補償を受けていないことにある」と2017〜19年にパナマの環境大臣を務めたエミリオ・センプリスはインタビューで語っている。
センプリスはブラジルの農地はパナマの面積に匹敵すると指摘する。しかし、農家は大気中のCO2を吸収する木を伐採している。伐採や農業は短期的な利益を生む一方で、生物の多様性を損ない、地域住民の暮らしを妨害している。
「炭素は生態系全体の委任状だ」とセンプリスはいう。「大豆は短期的には経済的価値があるが、長期的にはブラジルと地域の環境に影響を及ぼす。ルラは先住民のコミュニティを支援するための全国的な財政計画を実施することで、物事を正す機会を手にしている」
ブラジル国立宇宙研究局によると、ボルソナーロ政権下でアマゾンの森林伐採が60%増えた。それが2021年の同国の温室効果ガス排出12.2%増につながり、過去20年で最多となったとブラジルの気候観測所は指摘している。正確には、アマゾンの森林破壊が2021年の二酸化炭素(CO2)排出量の77%を占めている。ブラジルの森林破壊は2022年に11億9000万トンのCO2を排出し、これは日本の排出量より多い。
英エクセター大学の気候科学者ピエール・フリードリングスタインは「各国政府がクリーンエネルギーへの投資を加速させ、伐採するのではなく植林するなどの措置を取れば、世界の排出量は急速に減少するだろう」という。排出されるCO2の半分は大気中に残り、残りの半分は森林や海洋に蓄えられる。