開発進む「インフル万能ワクチン」、実用化へ政府は支援策を

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新型コロナウイルスのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、パンデミック(世界的大流行)が始まってから間もない2020年初めに開発された。開発にかかったのはわずか数週間で、臨床試験もかつてないスピードで進められた。そうして、その年の12月には安全で90%を超える有効性のあるワクチンが承認された。あらためて振り返っても驚くべき話だ。

このmRNA技術を、ほかのワクチン、とくにインフルエンザのワクチンでも利用したらいいのではないか。1年ほど前に本欄でそう書いたとき、ペンシルベニア大学のグループが当時すでに、その実用化に向けて懸命に取り組んでいることを知らなかった。最近、彼らは最初の成果を発表した。たいへん喜ばしいニュースである。

それについて紹介する前に、まずmRNAについて簡単におさらいしておこう。

mRNA技術は、ペンシルベニア大学のカタリン・カリコとドリュー・ワイスマンによって開発された。核となるアイデアはとてもシンプルで、ウイルスからたんぱく質の遺伝コードを取り出し、それをヒトの腕に注射するというものである。ウイルスのたんぱく質は何でもよく、新型コロナウイルスの場合は「スパイクたんぱく質」と呼ばれるものが使われている。

その遺伝コードがmRNAで、ヒトに投与されると細胞内でスパイクたんぱく質が合成される。mRNAは体内に取り込まれるとすぐ分解されるので、合成されるたんぱく質量はそれほど多くならない。

そして、つくられたこのスパイクたんぱく質を免疫系が「異物」と認識し、それに対する抗体を産出する。新型コロナウイルスのワクチンを接種した人は、この抗体によって本物のウイルスを撃退できるようになる。これが「免疫ができる」ということだ。

mRNAには、そのまま投与すると激しい炎症を引き起こすという問題があった。カリコとワイスマンは、mRNAを化学的に変化させることでそれを解決した。また、mRNAにはそれを包むものが必要になるが、ふたりは「リポソーム」と呼ばれる脂質ナノ粒子が利用できることも発見し、実用化した。
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編集=江戸伸禎

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