北極海航路開通、沖ノ鳥島が水没? 気候が安全保障上の大リスク

京都大学大学院総合生存学館准教授の関山健

気候変動が国家間の争いや経済活動に大きな影響を与えている。この仕組みや対策を考える「気候安全保障」という学問分野が注目を集めるようになってきた。気候安全保障と日本との関係について、日本では数少ない専門家でもある関山健・京都大学大学院総合生存学館准教授に話を聞いた。


──なぜ「気候安全保障」がいま注目されるようになったのでしょうか。

「気候安全保障」とは、気候変動が遠因となって起きる紛争や暴動のリスクを明らかにし、国や社会の安定を守る方策を考えるものだ。

気候変動がもたらす異常気象、自然災害、海面上昇などは、移民増加、食料危機、資源競争など複雑な経路を経て、時に内戦や国家間の衝突につながりうる。特に、農業依存や低開発の国などは気候変動に脆弱なため、これを遠因とする紛争や暴動のリスクも高い。また、脱炭素、エネルギー転換、地球工学などの気候変動対策も、国際政治に影響する。

気候変動による紛争や暴動のリスクには、不透明なところもある。仮にそれが現実味を帯びてくるとしても、今日明日のことではない。しかし、気候変動は「脅威の乗数」として増幅的に社会の平和と安定を脅かしかねず、不可逆的かもしれない。気候安全保障リスクの存在を今から意識し、回避の策を先んじて講じておくことは、それほどばかげたことではない。 

実際、国連や欧米諸国では2007年頃から気候安全保障の議論が重ねられてきた。日本では最近までほとんど知られていなかった概念だが、気候変動への関心の高まりとともに議論が増えてきた。

──日本にとって、脅威となりうる気候安全保障上のリスクは何でしょうか?

日本も近い将来、気候変動によって周辺地域や近隣諸国が不安定化することで間接的に影響を受ける可能性はある。

たとえば、温暖化により海氷の解け始めた北極圏で航路、資源採掘、漁業などの新たな経済的利益が開かれるにつれ、米国、ロシア、中国などの間で緊張が高まりつつある。北極海航路でアジアと欧州が結ばれれば、スエズ運河ルートよりも3割ほど距離が短くなり、日本にとっても関心事だ。近年、北極圏に対する自国の権利を強く主張しつつあるのがロシアで、この海域での軍事プレゼンスを拡大してきている。

中国も、北極海航路を「氷のシルクロード」と名付け、航路短縮による経済利益と地政学的影響力の確保への関心を見せている。こうした動きに対して米国は、北極圏の秩序と安全への脅威として中国とロシアを名指しで批判している。日本にとっても、中国やロシアとの北極圏での勢力争いは、新たな利害衝突の種となりかねない。
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文=関山健、写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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