ロシアが「人質外交」に成功 米バスケ選手を武器商人と交換

Brittney Griner(Photo for The Washington Post via Getty Images)

メディア各社は、ロシアで投獄されていた米女子プロバスケットボール(WNBA)のブリトニー・グライナー選手が「囚人交換」により釈放されたと伝えているが、今回の出来事はむしろ、「人質事件」の終結と言った方が正確かもしれない。

交換対象となったビクトル・ブート受刑者は、グライナーとは決して釣り合わない人物だ。国際的な武器商人として米国で禁錮25年の刑を言い渡され、2014年には「The Notorious Mr. Bout(悪名高きブート氏)」というドキュメンタリー映画でも取り上げられた。

一方のグライナーは、バスケットボールの試合のため訪れていたロシアで実際に犯罪行為に及んだのかすら不明瞭だ。今年8月、筆者のインタビューに応じた国際人質事件の専門家ダニエル・ギルバート博士は、「ロシアはグライナーに対する容疑を捏造(ねつぞう)したとみられる」との見解を示した。

「グライナーは0.7グラムのハッシュオイル(液体大麻)を所持していたとされるが、これは米国では辛うじて軽罪に相当するかどうかの量だ。ロシアでも、この量の大麻所持に対する刑罰は、罰金か短期の懲役刑にとどまる。それなのにグライナーは、最高で懲役10年が科される麻薬密輸の罪で起訴された」。実際、グライナーはロシアの裁判所により懲役9年の刑を言い渡された。

ギルバート博士は、2月のグライナー逮捕はロシアによる「人質外交」の一環だったと指摘。その主な根拠として、ロシアがグライナーを切り札として利用するために拘束していたことを挙げた。

グライナーの拘束は、バイデン政権がロシアをテロ支援国家に指定することをためらっていた理由の一つかもしれない。テロ支援国家に指定されれば、ロシアは甚大かつ長期的な打撃を受けることになる。

グライナーが釈放された今、バイデン政権はロシアのテロ支援国家指定を再検討する可能性がある。あるいは少なくとも、ウクライナなどに傭兵(ようへい)を派遣しているロシアの民間軍事会社ワグネル・グループをテロ組織に指定するかもしれない。

グライナーの解放と引き換えに悪名高き武器商人の釈放を取り付けたことで、ロシアは利益を得たのだろうか? 短期的に見れば、ウラジーミル・プーチン大統領やその取り巻きは、これを勝利とみなすかもしれない。

だがギルバート博士は「一般的に、人質の拘束には一時的な代価が伴う。拘束する側は短期的な利益を得られるが、長期的には犠牲を被ることになる」と指摘。「スポーツ選手がロシアへの渡航を拒否するようになったり、米国や国際社会がこのロシアの不法行為に対して制裁を科したりすれば、打撃を受けるだろう」と語った。

forbes.com 原文

翻訳・編集=遠藤宗生

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事