ビジネス

2022.12.08

ダイソンが「モバイル空気清浄機」を開発した理由

Dyson Zone 著者が装着



一見すると奇妙な組み合わせが成立する理由


Dyson Zoneの話に戻ろう。

Dyson Zoneには空気質センサーが搭載され自動モードで空気を浄化してくれ、ノイズキャンセリング機能が周囲の騒音を検知した上で減衰してくれる。つまり、空気質と騒音のデータをリアルタイムで取り込んでいる。

こうした測定データは家庭に置かれている空気清浄機や掃除機のセンサー情報と同様に、MyDysonアプリを通じて位置情報と共に集められる。どの都市のどんな公共交通機関、どんなエリアが、どのような空気質や騒音環境に置かれているのか。それらをマッピングすることで地域的な環境改善、あるいは新しい技術、製品開発へと繋げることも可能だろう。

アプリ内での可視化を工夫することで、都市生活を営むダイソン製品ユーザーの行動変容を促し、自らの健康面に配慮した生活スタイルへの変化を生むこともできるはずだ。MyDysonにはリアルタイムで空気質、周辺騒音レベル、ノイズキャンセリング後の騒音レベルを表示する機能もある。

Dyson Zoneを初めてみた時の違和感は、そうした知識や自らの体験、生活環境の変化などを想像した上で使ってみると大幅に緩和された。確かに何も知らない周囲の人たちの中には、その姿に驚くかもしれない。

しかし取材後に立ち寄ったロンドンで、街中や地下鉄の空気と音を感じてみると、なおさらにDyson Zoneへの違和感は失われた。




解決すべき課題と目標


さてコンセプトはこのぐらいにして、製品としてのDyson Zoneについて、もう少し深くインプレッションをお伝えしておこう。

新規市場を立ち上げる最初の製品として、Dyson Zoneは驚くほどのコストと手間がかけられている。前述したように外装や付属品の質感は極めて高い。

また、インペラー(羽根車)を最大9750rpmで回転させるエアコンプレッサは、それ自身が幅広い帯域のノイズを発するが、うまく吸音材とイヤーカップとの遮蔽、それにアクティブノイズキャンセリング技術を用いて押さえ込んでいた。

ただしコンプレッサの動作音は、全く聞こえないレベルというわけではない。音楽を聴きながらであれば気にならないレベルにマスキングされるが、静かな場所で音楽を鳴らさない状態では不快ではない程度の動作音を伴う。

また空気清浄機能が働いていない状態では、トランスペアレントモード(外音取り込みモード)の品質が高く自然に周囲の状況を把握できるが、空気清浄機能が動き始めると品質が落ちてしまう(動作しないわけではない)。

これはノイズキャンセリング機能を空気清浄機能の動作音低減に使っているからだと推察されるが、Dyson Zoneが空気清浄機能を全面に押し出していることを考えれば、将来的に乗り越えるべき課題になる。



またヘッドフォンとして使うだけならば50時間という大容量バッテリだが、空気清浄機のコンプレッサが回り始めると、最も風量が少ないモードでも4時間、最も風量が多いモードでは1.5時間までバッテリ持続時間が減ってしまう。

なお、フィルターの寿命は一般的な使い方と環境であれば約1年は機能低下を感じないということだから、こちらはフィルター価格次第とはいえ問題にはあまりならないはずだ。
これらの課題は時間が解決するだろうが、筆者が気になったのはDyson Zoneが健康への影響を受けない程度に空気をきれいにし、騒音を緩和する”自分だけの空間(ゾーン)”をもたらす装置にとどまるのか。

それともアプリを通じて収集したデータを用いて社会全体を向上させる取り組みへとつながる、より大きな枠組みに拡大していくのか。

将来の地球環境の変化に対して、生活環境を改善する製品というコンセプトに異論はないが、だからこそそのためのヒントとして個人の行動変容を促し、さらに社会基盤のリフレッシュ時にデータが活用されるといったコンセプトへの昇華を望みたいと考えるのは、少々欲張りすぎだろうか。

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