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2022.12.08 18:50

ダイソンが「モバイル空気清浄機」を開発した理由





ユーザーに高い質の”パーソナル空間”を


およそ6年の時間を要したという開発のスタート地点は、あくまでも装着できる空気清浄機だ。

しかし、使用者にきれいな空気を届ける製品のコンセプトを”より健康な生活環境を提供する”と読み替えたとき、生活の質や聴覚への影響を及ぼす可能性がある騒音への対策押してノイズキャンセリング技術に注目。最終的に高い質の音楽を届けるという部分までをひとつの製品にまとめたのがDyson Zoneだ。

ダイソンが本気でこの製品ジャンルを立ち上げようとしているのは、その贅沢な作りからも垣間見える。

本製品の価格は未発表だが、バッテリが一体化されたヘッドバンド、肌と接触する部分の素材感、フィット感、内部が着色されたアルミ製のシュラウド、マグネットで簡単に脱着できる柔軟性のある素材で作られたバイザー、一部モデルに同梱されるという革製ショルダーバッグなどから、彼らが妥協のない高級製品をコンシューマに向けて作っていることがわかる。

「厳しい環境で仕事をする人たちに向けた業務用製品として立ち上げる意図はないのか?」との質問にも、あくまでも個人が自分自身のために購入し、使う製品として位置付けられていると答えている。
もちろん、可能性としては業務用に展開される可能性はあるだろう。しかし、あくまでも基本的なコンセプトは、高い質のパーソナル空間を提供することにある。だからこそ”Zone”という名前が与えられているのだろう。

マグネット装着のバイザーは上下に可動し、機能が自動的にオン/オフされるほか、イヤーカップを軽くタップすることで三段階に送り込まれる空気量が調整。空気質センサーと連動して変化する自動モードもある。

製品を体験したマルムズベリーは郊外にあり、冬の冷たい気候もあって空気の質は高いが、それでも空気の質が変化することは感じられた。高性能な製品が群雄割拠するノイズキャンセリングの能力に特別なものは感じなかったが、極めて高い装着感もあって快適空間を作り出すという目的は達成できているようだ。

0.1 ミクロンの粒子状の汚染物質を 99%捕集し、カリウムを含む K-カーボンフィルターが NO2や SO2など、都市部での代表的な酸性ガスまでも浄化するという小型のHEPAフィルターは、微粒子はもちろんだがニオイまでも大きく緩和するという。



世界中から集まる”空気質”データ


掃除機メーカーとして知られるダイソンだが、ご存知の通り空気質センサーを内蔵した自動運転モードを持つ空気清浄機でも知られている。また掃除機のジャンルでも、集塵しているゴミの種類や量の統計などを集めて可視化する製品も開発した。

これらのデータはアプリのMyDysonを通じて世界中から集められ、ユーザーに対して可視化するだけではなく、匿名でデータセンターに集められて地域ごとの状況を把握することにも活用されているという。

アプリを通じて空気質データを共有しているダイソンの空気清浄機は世界中に150万台以上あるため、それらを集計するだけで地域的な空気質の傾向と時系列での変化が可視化できる。

空気質センサーと使われている場所の大まかな情報を用いた情報が重要と気づいたダイソンは、空気質センサーを搭載したバックパックを開発して通学児童、あるいは妊婦などに配布し、通学路や妊娠している女性の行動範囲、時間帯や季節と空気質の関係を調べてきた。こうした取り組みは14カ国で行われており、日本ではオリンピック選手がこのバックパックを背負って全国の都市を走るという調査も行われている。

国によっては、その結果を受けて通学経路を変更するなど、行動変容を促す成果もあったようだ。

日本に住んでいると、空気質や騒音環境といった生活環境が健康を害するレベルだとは実感しづらいが、ダイソンは世界人口の99%は空気質の悪化の影響を受けており、WHOの基準値を超える大気汚染の中で暮らしていると指摘。さらに公共交通機関や工事現場の近くなどでは、やはりWHO基準値を超える80dB以上の騒音に晒されながら生活しているという。

「日本では人口の7割が都市部に住み、ニューヨークでは90%の地域が騒音リミットを超えている。ホーチミン市ではほとんどの地域が78dBの騒音に晒され続けており、EUも都市部の騒音は限度を超えている」
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