持続可能な社会の実現に向けて、鉄道各社は鉄道の脱炭素化を急いでいます。日本の高い鉄道技術と知見は、今後、世界の持続可能な鉄道システムの発展を牽引することができるでしょう。本題について世界経済フォーラム(WEF)のアジェンダからご紹介します。
日本の鉄道は、1872年に新橋〜横浜間が開業して以来、今年で150年目の節目を迎えます。
明治維新後、近代国会への生まれ変わりを急ぐ日本にとって、交通制度の整備は急務でした。より多くのヒトやモノを乗せて、より速く、より遠くまで、走る鉄道の整備は、大きな意味を持っていたのです。
当時、日本は開国して間もなく、鉄道の技術は皆無であったため、鉄道建設の指揮を取ったのは、エドモンド・モレルをはじめとするイギリス人技術者たち。彼らの貢献により、明治維新からわずか5年で日本に官営鉄道が誕生しました。それから今日に至るまで、鉄道の存在が日本人の生活にさまざまな影響と変化を与えてきたことは言うまでもないでしょう。
鉄道は最もエコな交通手段
さまざまな交通インフラの中で、効率的な輸送を実現した鉄道ネットワークは、日本の経済発展を力強く下支えしてきました。自動車に比べて、運動エネルギー効率が圧倒的に高く、環境負荷が極めて小さいのも鉄道の大きな特徴です。
2019年度の、日本の二酸化炭素排出量は11億800万トン。そのうち、モビリティ(運輸部門)からの排出量は18.6%の2億600万トンを占めています。その内訳を見てみると、自動車が86.1%、航空が5.1%、内航海運が5.0%、そして鉄道が占める割合はわずか3.8%。
運輸部門からの二酸化炭素排出量で、鉄道が占める割合はわずか3.8% Image:国土交通省
ヒト1人を1km運ぶ際に排出する二酸化炭素量で見てみると、2019年に最も多かったのは自家用車(130g)で、続いて飛行機(98g)、バス(57g)、鉄道(17g)と、いかに鉄道が環境に優しい移動手段であるかが分かります。
ヒト1人を1km運ぶ際に排出する二酸化炭素量。鉄道は圧倒的に少ない。 Image:国土交通省
モダールシフトで排出量削減
輸送量が増加すると二酸化炭素の排出量も増加しますが、輸送量は景気の動向や経済情勢に大きく左右されます。予測の難しい輸送量の増減にかかわらず、排出量を確実に削減していくためには、効率の良い輸送を促進することが重要になります。
環境を配慮した取り組みが求められ始めた1990年代以降、地球環境の将来を見据えた物流の新たな考え方が注目を集めています。そのひとつに、輸送手段をトラックから鉄道や船舶に移行させる「モダールシフト」があります。JR貨物によると、1本の貨物列車(26両分)は、10tトラック65台分に相当するといい、一度に大量の荷物を運べる鉄道は、輸送効率が非常に高いことが分かります。
その一例として有名なのは、トヨタ自動車の「トヨタ・ロングパス・エクスプレス」。
名古屋〜盛岡間の約900キロを結ぶこの列車は、トヨタ自動車を荷主とする貨物列車で、愛知県の工場で生産された同社の部品を、岩手の工場まで運んでいます。トラックから鉄道での輸送に切り替えたことで、10トントラック40台分の荷物を一度に輸送することが可能になったとしています。
脱炭素社会を牽引する鉄道会社の取り組み
道路交通から鉄道の利用へと移行が進むことで、排出量の削減は叶ったとしても、鉄道が排出する二酸化炭素をゼロにするためには、鉄道各社の取り組みが鍵を握っています。どれほど環境負荷の低い鉄道でも、その排出量の9割は電力由来で、その多くを火力に依存しているからです。