経済・社会

2022.11.19 10:00

ドニプロ川を挟んだ攻防、ウクライナ軍は「左フック」でロシア軍を攻められるか


キングズ・カレッジ・ロンドン戦争研究科の研究員マイク・マーティンが、ウクライナ軍は挑戦すらしないかもしれないとの考えを示したのはそのためだ。その代わり、ウクライナ軍はすでにドニプロ川を渡っている地域から新たな反撃を開始する可能性がある。つまり、ヘルソン州の東に位置するザポリージャ州からだ。「ウクライナ軍は南に軸足を置き、ロシア軍を二分しようとするかもしれない」とマーティンはツイートした。

ザポリージャ州東部の大部分はロシアの占領下にあるが、北部とザポリージャ市は違う。同市はヘルソン市から北東に約241キロ離れたドニプロ川のほとりに位置する。ザポリージャ市周辺のウクライナ軍は南方に向かって進軍し、ザポリージャ州のロシア軍の防御を突破できれば、東へ転進してドニプロ川の左岸を河口まで進むことが可能だ。

ボクシング用語でいうところの左フックが成功すれば、2014年にロシアが占領したクリミア半島を除くウクライナ南部全域からロシア軍を追い出すことができる。左フックでウクライナ軍はクリミアに進軍し、8年間にわたるロシアの拡大を逆転させることができるといっても過言ではない。「クリミアはウクライナの戦略的目標だ」とマーティンは説明した。

マーティンがザポリージャの左フックを想定したのは、それが明らかな動きだからだ。しかし、ロシア軍司令官が8月にそれを予期するほど明らかだった。東のハルキウ、南のヘルソン周辺でウクライナ軍が増強されるのを見越して、ロシア軍司令官はザポリージャ南方の第58合同軍に所属する十数の大隊を強化し始めた。

ロシア側にとって問題は、この増強が大したものでないことだ。増強にはロシア政府がウクライナでの損失を補填するために長期保管庫から引っ張り出した、1980年代製かそれよりも古い数百両の戦車T-62が含まれている。T-62はまったく役に立たないことが明らかになっている。ウクライナ軍は十数両単位でT-62を回収している。

しかし、ウクライナ軍が左フックを繰り出すのに必要な人員と兵器があるかどうかははっきりしない。第92、第93機械化旅団、第128山岳旅団など、最も経験豊富で優秀なウクライナ軍の部隊がそれぞれ東部と南部の反撃を率いている。

ウクライナ側がザポリージャ戦線にサプライズを用意しているとすれば、それは書類上は存在するがまだ前線に登場していない2つのウクライナ戦車旅団という形になるかもしれない。第5、第14戦車旅団はザポリージャ周辺のどこかに予備として存在するかもしれない。しかし繰り返しになるが、そうでない可能性もある。

もし、ウクライナが2つの戦車旅団と数百台の戦車T-72を持っていれば、左フックを成功させるために必要な戦力を確保できるかもしれない。「冬に動きがあると予想している」とマーティンはつぶやいた。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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