このドニプロ川は、ロシア側、そしてウクライナ側にとっても軍事的に活用できるものだ。しかし、この川の利用ではウクライナ側が有利な立場にあることを強く示唆するものがある。
ウクライナ軍は5月、新たに手に入れた米国製のロケットと欧州製の榴弾(りゅうだん)砲を使ってロシア占領下のヘルソン近くのドニプロ橋を狙った。橋を落とすと、ヘルソン州の北半分を占領していたロシア軍への補給が絶たれた。
11月7日の週に腹を空かせたロシア軍がヘルソン北部からようやく撤退したとき、ロシア軍はドニプロ川を浮橋で渡り、川の左岸に陣取った。かつてドニプロ川はロシア軍にとって悩みの種だったが、今では天然の防御障壁という財産になっている。
ウクライナ軍がドニプロ川をいかに首尾よく渡るかで、8月下旬から9月上旬に始まり、これまでのところ極めてうまくいっているウクライナ軍の反撃がいつ、どのような効果を発揮するかが決まってくる。反撃により東部ハルキウ州の全域と南部ヘルソン州の大部分を解放した。
ウクライナ軍の南下はドニプロ川の右岸でほぼ止まっているが、ウクライナの特殊作戦部隊が小型ボートでドニプロ川の河口を渡り、河口のすぐ南の海に突き出たキンバーン砂州を偵察している形跡がある。
ウクライナに展開するロシア軍はボロボロで疲弊し、飢えている。そして9カ月間の戦争で死傷した10万人の優秀な兵士を部分的に補充するために、訓練を受けていない不幸な徴集兵が前線に向かって重い足取りで移動しており、日毎に戦闘力を失っている。
しかし、ロシア軍はまだ戦っている。ドニプロ川左岸には第8軍と第49軍の合同軍に所属する数万人の兵士と数百台の装甲車がいる。ロシア軍は依然としてウクライナ軍よりも多くの優れた攻撃ヘリコプターと戦闘機を保有している。
もしウクライナ軍がこれらの防御を破って川を渡ろうとすれば、大きな犠牲を出し、失敗する可能性がある。夏にウクライナの旅団がヘルソン北部を流れる川幅がドニプロ川より狭いインフレツィ川を渡るのにどれだけの時間と人員、装備を要したかを考えて欲しい。