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2022.12.03 17:00

アソビュー山野智久の偏愛漫画『キングダム』|社長の偏愛漫画 #6

山野智久(アソビュー代表執行役員CEO)


山野:一番好きなシーンですね。コロナ禍でアソビューが経営危機に陥るなか、僕の魂を無類に鼓舞したのは「朱海平原の戦い」における王賁(おうほん)と信による「覚醒の檄」でした(53巻)。これは何回読んで何回泣いたことかわからないぐらい大好きなシーンなんですよ。
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売り上げがゼロになり、資金調達の道も断たれ、どう戦術を考えても倒産以外の選択肢が見当たらない。どん底だった僕は泣きながら『キングダム』を読んで自らを鼓舞し、王賁や信が乗り移ったかのように「力を貸してくれ」と社員一人ひとりに叫びました。

すると皆が覚醒し、存亡の機にあったアソビューは奇跡のV字回復を果たしたのです。『キングダム』のおかげで、僕は150人の社員を1人も解雇せず危機を突破しました。

栗俣:このシーンは2人が動いたというよりも、隊のメンバーが「いまこそオレたちは最強だ」というようなことをちゃんと言うんですよね。隊の目線で描かれている。社員が一丸となっていく様子に共通しますね。
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山野:琴線に触れるのはいつも、歴史を語るときだと思うんです。いきなり泣いている人を見せられても感動しない。なぜ泣いてるのかが描写されるからこそ、我々は泣くわけです。それと一緒で、新しく入ったメンバーにも、なぜこの隊が生まれ、そしてどういう出来事があっていまここに至り、次に未来で何を成したいと思っているのかがちゃんと語られている。これが、我々の涙をそそるんですね。

栗俣:『キングダム』は、教訓が多い作品と言われています。いまの山野さんの生き方に影響したことはありますか?

山野:メチャメチャありますが、ひと言で言うと「ダイバーシティ」です。

経営は論理やスペックで語られがちで、ビジネスでは知力が重要だと定義されます。だけど、正解は一つではないし、本能も大事。

例えば、河了貂は戦略家だが腕力が弱い。仁淡兄弟の弓矢は最強だが接近戦には弱い。中華統一のためならば、賊党集団や野盗集団すら仲間に取りこんでしまう。「みんな違ってみんないい」と言わんばかりのダイバーシティが、危機のときこそ無限の力を発揮するのです。多様性ある選択肢の提示は、自分の経営スタンスにすごく影響を与えています。

もう一つは、チームを呼び起こす「言葉の力」です。

いま僕は、毎週月曜の朝に全社員が参加する「軍略会議」を開いています。『キングダム』に影響されて、9時20分から40分間、リーダーが隊に語りかける時間を設けました。そのときに意識しているのは、自分の言葉でその1週間、隊を覚醒させられるか、奮い立たせられるか、少しでも一体感をつくれるか、大義を忘れないようにインプットできるかということ。

アソビューの大義と歴史を語り、未来のビジョンを皆と共有する。リーダーが語る言葉は「ショートフレーズ、ビッグインパクト」が理想です。それが将軍たちは全員、うまい。

栗俣:将軍が隊に話すときはとても簡潔で、何をするかわかりやすく伝えますよね。語りかける人数が多くなればなるほど、言葉のフレーズが短くなる。

山野:王騎将軍なんて「はっ!」だけですからね。

栗俣:でも、幹部の連中とはメチャメチャ細かく話します。あれがすごいですね。

山野:僕たちの「軍略会議」もかなり長いことやってるので、進化しています。僕が檄を飛ばす機会は減っていますが、その前には必ず『キングダム』を読むぐらい、自分としてはマインドセットして臨んでいます。

会社を立ち上げて12年目ですが、『キングダム』に出会ったのは7〜8年目。ちょうど組織が大きくなりだして、組織のなかのマネジメントや、経営者としてのあり方を意識し始めた頃です。信からは公平性や勇気を学び、ストーリーを通してダイバーシティを学び、リーダーとしての檄の重要性も学びました。

王騎将軍や信のように、たった一言で人の心に火を灯せるリーダーになりたい。経営者としての僕の人生は『キングダム』と共にあると言っても過言ではありません。


『キングダム』原 泰久 ヤングジャンプ・コミックス(既刊65巻)
舞台は中国の春秋戦国時代。戦災孤児出身から「飛信隊」を率いて「天下の大将軍」へと成り上がる信、秦の王(後年の始皇帝)の2人を軸に、中華統一を目指す人々の戦いを描く。2006年にデビューした作者初の連載作品がメガヒット。


くりまた・りきや◎TSUTAYA IPプロデューサー。「TSUTAYA文庫」企画など販売企画からの売り伸ばしを得意とし、業界で「仕掛け番長」の異名をもつ。漫画レビュー連載や漫画原案なども手がける。

インタビュー=栗俣力也 文=荒井香織

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