経営者が座右の書とする漫画作品を紹介する連載「社長の偏愛漫画」。自身の人生観や経営哲学に影響を与えた漫画について、第一線で活躍するビジネスリーダーたちが熱く語ります。
第6回目は、アソビュー代表執行役員CEOの山野智久が登場します。聞き手を務めるのは、漫画を愛してやまないTSUTAYAの名物企画人、栗俣力也。
経営者としての僕の人生は『キングダム』と共にある
栗俣力也(以下、栗俣):山野さんと『キングダム』の出合いは?
山野智久(以下、山野):出合いは6〜7年前。ビジネスパーソンの間で「『キングダム』っておもしろいよね」と話題になっていて、「じゃあ読んでみようかな」と。
王騎将軍が死に、蕞(さい)の戦いに入る前ぐらいのタイミングから読み始めた気がしますね。
栗俣:16巻のあたりですね。一番盛り上がっていて、そこからブームが起きた。原泰久先生が目を大きく描き始めた時期です。初めて読んだときの印象はいかがでしたでしょうか?
山野:「これは経営の本だな」と思った。ストーリーがとてつもなく面白いのに加えて、リーダーとしての生き方と経営哲学を学べる格好の教科書です。
個性的なリーダーがそれぞれの隊を率い、それぞれのやり方で隊のモチベーションを上げていく。それが小隊の場合もあれば、大王であったり、国の場合もある。さまざまな立場や役割で、それぞれの方法、意思決定で、勝利に導いていく。リーダーとしてそれをどう実現していくのかが学べる本で、すごく感銘を受けました。
やまの・ともひさ◎1983年、千葉県生まれ。明治大学卒業後、リクルート入社。11年、アソビュー創業。レジャーxDXをテーマに、遊びの予約サイト「アソビュー!」、アウトドア予約サイト「そとあそび」などを運営。著書に『弱者の戦術~会社存亡の危機を乗り越えるために組織のリーダーは何をしたか~』。
栗俣:山野さんの考え方に最も近いリーダー的キャラクターは?
山野:一番バランスがいいなと思っているのは、死してなお伝説となる王騎将軍です。
とかく経営者は、計算式、方程式、フレームワークに基づいて論理的に成功確率を上げようとします。
しかしロジックだけで戦いに勝てるとは限りません。王騎将軍は「知略と本能」の両方を兼ね備えています。知略的に冷静に戦術を読み解きつつ、ときに自分が矢面に立って感情を剥き出しにし、隊員の士気を鼓舞して心をわしづかみにするのです。
これは、どちらが正解・不正解ではなくて、どちらも重要であるということを、先生は定義してくださっていると僕は勝手に解釈しています。
王騎将軍は、初期段階で出てきた将軍のなかで、その両方をもっている最高の将軍。僕自身、ビジネスをやるうえで論理やフレームワークも重視していた時期があります。ただ、それだけだとなかなか組織マネジメントがうまくいかなくなる。やっぱり感情も大事だよねと思ったときに、その両方をあわせもつ王騎将軍の登場を目の当たりにして「これだ!」と思いました。
後ろに控え、知略的に戦術を読み解いて、指示を出して勝ちに行く場合もあれば、自分が矢面に立って隊員を鼓舞し、士気を一気に上げ、確実に首を取りに行く場合もある。この両方がバランスよくできるリーダーとしての素晴らしさが、王騎将軍にはあります。