イタリア北西部のピエモンテ州でアフリカ豚熱が発生したことを受け、加工後の製品中でも感染力が継続することから、日本で飼育中の豚への感染を防ぐため、生ハムをはじめとする豚肉加工品すべてが輸入禁止となったのだ。
あれから10カ月、規制開始前に輸入済みだった在庫もついに底をついたようで、店頭の生ハムも完全にイタリア産以外の、スペイン産やオーストリア産などに入れ替わってしまった。
パルマ産やサン・ダニエーレ産にとって代わる生ハムを求め、インポーターたちが血の滲む努力で奔走してくれた賜物だけあって、それらは予想以上に質も高く、確かに美味しい。
しかし、美味しいは美味しいのだけど、やはり、何かが違うのだ。
地域食材を活かすイタリア料理
生ハムを産するイタリアのエミリア・ロマーニャ州の郷土料理で、20数年前、私が料理修行を決意するきっかけともなったトルテッリーニというパスタは、中に詰めるミンチ肉の材料として生ハムが欠かせない。
しかし、イタリア産生ハムが手に入らなくなったので、とりあえずスペイン産生ハムでつくってみたものの、塩気が立ち過ぎて味が決まらない。
同じくニョッコ・フリットというこの地方の揚げパンは、あつあつの揚げたてに生ハムを巻いたり挟んだりして食べると、熱で生ハムの脂身がやんわりとほどけ、口にした瞬間、なんともいえない上品な脂の香りと味に魅了される。
しかし、スペイン産の生ハムだと、どんなに高級なハモン・セラーノ(スペインでつくられる生ハム)を合わせてみたとしても、パルマ産の生ハムと合わせた時のような感動がない。
こうした違いは、生ハム単体で食べるより、料理にしてこそ如実に現れる。理由は、イタリア料理というのが、地域の食材を最大限に活かし切る点にあるからだろう。
イタリア産生ハムの喪失感は日ごと増すばかり。輸入再開までには、あと3年かかるとも10年かかるとも言われているが、さすがに規制が厳しすぎやしないだろうかと、もどかしく思っているのも私だけではないはすだ。
つくづく思う。遠く離れた海の向こうの1つの食材で、こんなにも代わりの効かないものが、地球上で他にあるだろうかと。